悲しみは悲しみのままでいい。チカラになんてしなくていい。

2020年にCDデビュー25周年を迎えた、シンガーソングライター・川村結花。今日のうたコラムでは、その記念企画として2020年~2021年の2年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けしてまいります!更新は毎月第4木曜。

 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第23回をお届けいたします。



第23回歌詞エッセイ:思いの正体


11月。大好きな月。そのせいか気のせいか、11月というのはなにかしらわたしにとって、意味のある大事な事や良き事が訪れる月だったように思います。
 
先日開催した1年10ヶ月ぶりのワンマンライブも11月13日。最高のバンドとともに久々にアンサンブルを奏でる事ができ、お客様もあちこちからいらしてくださり、とても幸せな1日でありました(いらしてくださった皆さま、あらためてありがとうございました!)。それに4年前、Darjeelingのおふたり(佐橋佳幸さん&Dr.KyOnさん)のプロデュースで、アルバムをリリースするなんていう素敵な事が叶ったのも2017年の11月。
 
そしてそして。音楽家になって初めて、自主制作というやり方でピアノと歌だけのスタジオ録音アルバムを制作&リリースしたのも8年前2013年の11月でした。タイトルは「private exhibition」。意味は「個展」。これは数あるわたしのアルバム(いや、そないにないか、、、)の中でも最も個人的で内省的な作品であると思われます。
 
その中の「歌なんて」という曲。この曲は書き上げるのに5年かかりました。というとえらい大仰に聞こえますが、本当にそれだけ要しました。理由はその表現したい内容というのが生まれて初めて自分の中に芽生えた思い、人生観が変わってしまったほどの思いだったからです。
 
その思いの正体が何なのか。この叫びは何なのか。それがわかるまでに書いては捨て書いては捨てを繰り返しました。勿論5年の間この曲だけを書いていた訳ではありませんので、時々取り組んではしばらく忘れて、の繰り返しだったのですが。そんなこんなで5年目のある日、ようやく時が満ちて心と言葉が一致したのでした。3拍子の旋律と共に。
 
歌なんて 歌なんて なんの役に立つものか
歌なんて 歌なんて ただの絵空事じゃないか
 
この2行は、わたしが齢41にして経験した大きな悲しみを表すに最も適したものでした。それまでのわたしは、悲しみというのは越えて行くものだと―、越えてチカラにしてまたひとつ強さを手に入れ生きて行くものなのだと―、そう信じ込んで大人になりました。乗り越えられない時は努力が足りないせいだ。と自分を責め立て叱咤しました。そうやって生きて来ました。その生き方しか知りませんでした。
 
それが41歳の時、今まで経験したことのない大きな悲しみに出会い、抗えど抗えど太刀打ちできず、音楽さえも聴く事ができなくなり疲れ果て塞ぎ込み、ついに「嗚呼もう無理だ乗り越えられない」と膝をつき降参したのでした。そして知ったのです。この世には乗り越えられない悲しみがあることを。またそれは乗り越えられなくても構わないということを。なにより乗り越えられない自分を許していいんだということを。
 
何を知ったカオをして わたしは生きて来たんだろう
 
まったくその通りでした。何をわかったような気で偉そうに歌なんて作って歌って来たのだろう。本当の悲しみも知らないで。なんと自分は傲慢であったのだろう。そのことに気づかされた時、わたしの人生観もがらっと大きく変わりました。そして。
 
信じられない悲しみは ある日私の一部になった
信じられない悲しみを 越えずとも抱きしめてゆけばいいと
 
―これがわたしのたどり着いた答えでした。
 
乗り越えなくてもいい。抱きしめていてもいい。ずっとともに生きていたっていい。悲しみは悲しみのままでいい。チカラになんてしなくていい。
 
あの頃のわたしの状態を、もしかしたら絶望と呼ぶのかもしれないなあと最近思います。絶望と無力感の日々。それでもまた歩き出すことができたのは、悲しみを乗り越えたからではなく、ずっと悲しくたっていいんだと自分に許しを与えたからです。そんな生き方もあると知りました。そして今日もわたしは生きています。できない自分をできないと認めながら許しながら。
 
、、、なんだか重たいハナシになってしまいましたが、、、最終回を前にどうしてもこのことだけはお話ししておきたかったのでした。そう、次回ついにラストとなりますこのエッセイ。うわー。さびしいな。そんで、1年、早ッ。なのでせめて最後は思いっきりHappyなお話がしたいな。できるかわからんけど。ということで~、ではまた来月、最終回でお会いしましょう!
 
<川村結花>



◆紹介曲「歌なんて
作詞:川村結花
作曲:川村結花

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
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