いつも「ああ大阪に帰ってきたなー」と思う瞬間は…。

 2020年は、シンガーソングライター“川村結花”のCDデビュー25周年のアニバーサリーイヤー!そこで、今日のうたコラムでは、その記念企画として1年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けいたします。更新は毎月第4木曜!
 
 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この1年の連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第7回をお届けいたします。

第7回歌詞エッセイ:「Welcome home

毎日毎時間世の中の状況が変わるここ最近。なので今書いていることももしかしたら記事になる頃には的外れな内容になっているかもしれない、などとちょっと気にしつつもまた今月も書かせていただいております歌詞エッセイ。

ただこちらの場合はまだ〆切後ほどなく掲載されるのでそこまで極端ではないにせよ、これが楽曲だったらもうえらい不安です。例えて言うなら冬リリース予定でクリスマスをテーマにした曲を夏から制作していざリリースとなった時、クリスマス禁止条例が可決されて歌はボツ、となるようなもの。あくまでわたしの下手クソな例えですが、それに近いことー、昨日までは良しとされていたことが今日はいきなり口にするのもどうか、みたいな変わりよう、そういうことが日々加速して増えているように思えてなんだか心が閉塞感で疲弊してしまうのです。

そんな中、今何かと話題のGoToキャンペーン。今この記事を書いている数時間前にも、東京都を目的とする旅行と東京都に在住の人の都外への旅行は対象外にすると政府決定された、という報道が流れたばかり。今の新型コロナ感染拡大状況を考えたら妥当な方針にせよ、たとえGoToキャンペーンがあろうがなかろうが、夏といえば帰省、故郷、お盆、というような大切な情緒ごと否定されてしまったような気がして寂しい気持ちになったのは正直なところ。

そんなわたしなので故郷への思いを書いた作品はいくつかあります。例えば<なつかしいイントネイションが あふれてる地下鉄のホーム>という出だしで始まるこの曲。2012年にSCANDALへ提供(作詞&作曲)した「Welcome home」という楽曲です。

その時のテーマが「宝物」だったので、メンバーのみんなが思う宝物って何?というミーティングをしたところ、「ふるさと」「育った町」「地元」というようなキーワードが出てきたのでした。なんだかみんな綺麗でかわいくて強気でカッコイイ女の子たちでありながら、素直に東京へ来たばかりの頃の不安な気持ちや地元のお友達のことやー、なにしろたくさんの素敵な優しい繊細な思いを語ってくれて、同じ上京組であるわたし(年も見た目も全然違いますが)も大いに共感、お呼びせずとも「お迎え」(←バックナンバー【第5回】を参照してね)はすぐやって来て筆は進みまくり一気に書き上げることができたのでした。自分の中でもとても好きな曲の一つです

そんなわたしの故郷は大阪なのですが、いつも「ああ大阪に帰ってきたなー」と思う瞬間は先述の<なつかしいイントネイションが~>の1行目に集約されています。新幹線のホームではなく地下鉄のホームでなければいけなかったのは、新大阪駅のホームから改札へ降りて行くエスカレーターでは標準語の人もいれば、「あれ、立ち止まるのは右側でええんかな」という戸惑いもあるカオスなエリアだからです。

それが改札を出て地下鉄御堂筋線へ向かう地下道から次第にポツポツと濃い目の大阪弁が聞こえ始め、ホームにたどり着き電車に乗り梅田を過ぎ難波へ着く頃には見事にネイティブな大阪の懐かしいイントネイションで溢れかえっています。この、新大阪から難波駅までへのほんの15分間で、最初ウィスパーくらいだった「あー、やっと大阪着いた」という感情が駅ごとにどんどんクレッシェンドして行き、難波に着く頃には大爆音で「帰って来たでー!」と叫ぶのです。(←心が。)あの感じ。地下鉄の音。車内の話し声。書いていてちょっと胸の奥がキュンとなりました。

生まれ育った町。親兄弟や気のおけない友達がいる町。縮こまった心を解放してくれる町。そんな大切な町へ、何にも誰にも気兼ねすることなく帰ることのできる日がどうかどうか1日も早くわたしに、そして全ての人の元に戻って来ますように。

<川村結花>

◆紹介曲「Welcome home
作詞:Yuka Kawamura
作曲:Yuka Kawamura

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
【第1回】
【第2回】
【第3回】
【第4回】
【第5回】
【第6回】