たとえどんなにボロボロになってもそれでも。

 2020年は、シンガーソングライター“川村結花”のCDデビュー25周年のアニバーサリーイヤー!そこで、今日のうたコラムでは、その記念企画として1年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けいたします。更新は毎月第4木曜!
 
 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この1年の連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第10回をお届けいたします。

第10回歌詞エッセイ:「それでも夢見ずいられない

渡辺美里さん。言わずと知れた大歌手。My Revolution。10 Years。サマータイムブルース。数々のヒット曲とジャケットに見覚えのあるアルバムたち。西武球場での20年連続コンサート。数え切れないほどの輝ける足跡。早い頃にデビューされていてわたしが物心ついた時にはもう大スターだった方なので、わたしは1967年の早生まれとはいえ学年は同じ、と知った時には衝撃でした。早い時期から活躍されている方なので勝手に年上な気がしていたのと、同じ学年だと知った後でもやはり変わらずこの世界での先輩中の先輩、尊敬する大先輩です。

ですのである時、彼女から「学年同じなんだからお互いちゃんづけで呼び合いましょう~、結花ちゃん美里ちゃんで!」と提案された時、いやいやいやいやとんでもないとてもじゃない無理無理そのような恐れ多いこと、、、、とひっくり返ったのですが、あれから3年ほどしてようやくLINEやメール上のみ「美里ちゃん」と呼べるところにまでたどり着きました。

ちなみに先日リモートでミーティングしましたが、顔をあわせるとやはりなんとなくモジモジしてしまい、お互い「さん」になってしまうのでした。なんだか付き合いたてのカップルみたいな初々しい気持ちだったりもしますが、なにしろ顔を合わせて「ちゃん」で呼べるようになるまでには、やっぱりまだ時間がかかりそうです。ゆっくり自然に距離が近づくごとにそうなれたら素敵だなと思います。

そんな美里さんとのご縁は、2006年にリリースされたシングル曲「青い鳥」の作曲をさせていただいて以来10年以上になります。その後も何曲か書かせていただいていたのですが、1曲だけ作詞作曲両方手がけた「また、明日」という作品を除いてはわたしは全て作曲のほうの担当でした。

それがなんと昨年、美里さんの35周年記念アルバム『ID』に収録される予定のとある曲の制作ご依頼をいただき、予想外に作詞のご依頼であったということが、わたしにとってすごく新鮮で嬉しいお話でした。

作曲はSuperfly元メンバーの多保孝一さん。メジャーキーのミディアムアップで全体的に元気で力強い曲調なのだけれど時折胸が「きゅん」となる切なさを携えたドラマチックで素敵な曲でした。

その「きゅん」は、トキメキ類の「キュン」ではなく、今日まで生きてきた中で失くした恋や変わってしまった景色や環境に思いを馳せた時に生じる「きゅん」であり、「ああ、なんだかんだ自分ここまでなんとか生きてきたなあ」としみじみする時に生じる「きゅん」であり、「あの頃はなんだって出来ると思っていたのだなあ、若かったなあ」と同世代の友人と語り合う時に生じる「きゅん」であり、、、て、もうええか。なにしろこの曲の肝である「きゅん」はそういう、ある程度年齢を重ねないとわからない心情な気がしたのです。そしてそこにとても心惹かれました。

人生を経て来た大人にしかわからないそんな切ない気持ち。もう若い頃と同じだけのやみくもな情熱は持てないけれど、だからといって全てを達観できるような域までは行っていない。今もこれからも何かに憧れていたい、何かを追い求めていたい、明日を夢見ていたい、という気持ちは変わらない。

そんなことをイメージしていたら「いくつになっても夢見ずにはいられないのだなあ」というような気持ちを表現したい、と思い至り、「それでも夢見ずいられない」というタイトルが浮かんだのでした。色々あったしこれからも色々あるだろう。現実を見れば肩を落として膝を抱えていたくなることばかり。今までも何度もこんなことがあった。絶望も経験した。そしてそのたびまた思い直して歩いて来た。なぜなら明日を夢見ずにいられないから。どんなに大人になってもそこだけは変わらない、たとえどんなにボロボロになってもそれでも、それでも夢見ずいられない。

そんな気持ちを込めた歌詞。喜びも痛みも光も影もきっとありあまるほどに知っていらっしゃるであろう美里さんの歌は、説得力に満ち溢れ本当に素晴らしく感涙でした。

くしくも今日は久々の秋晴れです。こんな日に好きな服を着て外へ出て思いっきり街の空気を吸うと、理由もなく希望的で優しい気持ちが溢れてくるのを感じます。世の中はまだ不安定で先がわからない状況が続いていますが、今日のこの気持ちの良い風のように、たとえさりげないことでも何か心が喜ぶことに日々一つでも出会えますように。そして1日も長く秋が続きますように。というわけでまたちょっと外の空気吸いに出かけて来ます。ではまた来月。

<川村結花>

◆紹介曲「それでも夢見ずいられない
作詞:川村結花
作曲:多保孝一

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
【第1回】
【第2回】
【第3回】
【第4回】
【第5回】
【第6回】
【第7回】
【第8回】
【第9回】