みんな、それぞれの「今だからこそ」がきっとあるはず。

 2020年にCDデビュー25周年を迎えた、シンガーソングライター・川村結花。今日のうたコラムでは、その記念企画として2020年~2021年の2年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けしてまいります!更新は毎月第4木曜。

 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第21回をお届けいたします。

第21回歌詞エッセイ:今だからこそ

9月ももう第4週の週末となりました。2021年も残すところ3ヶ月ほどだなんて。と毎年この時期言っているような気がしますが、皆さま如何お過ごしでしょうか。今回はいつものコラムとはちょっと違うけど、歌詞作りにも通ずるお話をしたいと思います。

ここのところのわたしはといえば、ひたすらに曲を制作し続ける日々です。そんな中で自分でもびっくりなのは、離れた場所の方とリモートで曲作りをしていることです。ていうかそれが自分に出来ていることです。

はぁ?今頃何言うとん?な話ですよね、ええそうでしょうそうでしょう。しかしながらこのアナログ人間&ものぐさ大王のわたしが、「送られて来たトラックに新しいフレーズ足したり楽器足したり差し替えたり」「トラック別々にしてそれぞれwavファイルで送る」などという、以前だったら「ちょっと何言ってるかわからない」なことが出来ている、ということ自体、大事件大進歩なのであります。

いやいや人って、必要に迫られ倒されまくりあげられたら、ちょっとは進歩するのですね。送られて来た音源ファイルを自分とこの音楽制作ソフトにブチこんで、ぶわーっと波形になって画面に出て来た時、おおお!って声出ましたもん。むちゃくちゃ感動したんやもん。それと同時に「今まで何やって来たん自分」とも。

20代30代の若い頃から、新しいこと覚えるのが億劫という基本形が根底にあるが故に、誰かから「そんな面倒なシステムでやってるの。こうこうこう変えてみれば?」などとアドバイスされようものなら「こ、この人なんだか複雑なことやらせようとしてるに違いない」とコンマ1秒で耳をふさぎ、心の扉をガシャーンと締めて来た頑ななわたし。

あほやーーーーーーーーーー。と今なら思えますが、前だったらそれらを身に付けなくても、自分古来のやり方でやれて来たので、きっと新しい作り方を身につけることは出来なかったでしょう。何回かチャレンジはしましたが、途中で「やっぱめんどくさー。今のやりかたでいけるし、まあしばらくはこのまんまでええわ」と挫折。しかも「だいたいそんなん憶える時間あったら曲書くし」という大義名分付き。そら覚えられへんよなー。ラクな方選んでしまうもん。

でも。結局のところ、新しいやり方の方がラクであり、やれることも広がるということを体感してしまった今。もう前のやり方には戻らないだろうなあと思った時、ああ物事のタイミングにはすべて意味があるというのは本当なのだなあ、これら全てコロナ禍の今だからこそ出来たことなのであろうなあ、と、思ったのです。他の人には些細なことかもしれないけれどわたしには大きなことでした。

何が言いたいかというと、停滞しているように見えても、ちゃんと地下茎はその根を成長させていて、地上に出るタイミングを今か今かと待ち構えているのだなあ、ということです。今だからこそ書ける歌詞がきっとあるはず。今だからこそ書ける曲がきっとあるはず。みんな、それぞれの「今だからこそ」がきっとあるはず。そう思うのです。

閉塞感でどうにかなってしまいそうな世の中だけれど。タダでは起きない精神で、お互いにしなやかで逞しく歩んで行けたらいいなと思うのです。今日はなんだかそんなお話を無性にしたかったのでした。歌詞とは直接関係ないけど。それでも。なにしろ元気でまた来月このページにてお会いできますように。そしてここひと月ほどは、来たる秋の味覚を存分に味わいお過ごしくださいね。

<川村結花>

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
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