心の中で聴いていたい。

 2020年にCDデビュー25周年を迎えた、シンガーソングライター・川村結花。今日のうたコラムでは、その記念企画として2020年~2021年の2年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けしてまいります!更新は毎月第4木曜。

 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第15回をお届けいたします。

第15回歌詞エッセイ:心の中で聴いていたい

3月ももう残りあと少しとなりました。日々大きく変わる気温のせいで何着たらええのかようわからん状態の真っ只中であります。昨日も信号待ちの交差点にてスギちゃんと見まごうような袖なしデニム&短パンの男性と、冬物ロングコートにナマ足の女性が同時に目に突き刺さってきました。こういう光景を目にするたび「いやわかるわあほんまこの時期着るもんどないしてええか困るよね~」、と一方的に親近感と仲間意識を抱いてしまいます。そしてもちろん今日のわたしも上下の季節感も素材感もバラバラ、かろうじて色だけは合わせたくらいの格好でおります。ほんと苦手、季節の変わり目。

そんなことより何よりこの原稿がUPされるのは25日木曜日。ということはもうドラマ『天国と地獄』は最終回を迎えた後なのですね。まあ寂しい。

何が寂しいかって、劇中最後の方のシーンに流れる手嶌葵さん歌唱の挿入歌「ただいま」、あの曲が聴けなくなることだったりします。と書きながら今心の中で流しているところです。切ないです。うーーーってなります。いやそんな聴きたいんやったら実際に音源流して聴いたらええやん、と思うでしょ、でも違うねんな~。あくまで心の中で流していたいんです。なんとなくわかっていただけるでしょうかこの感じ。

あのドラマ、気まぐれに見始めたのは、男女が入れ替わった綾瀬はるかさんと高橋一生さんの演技に興味があったから。それにサイコパスのシリアルキラーと刑事のサスペンス的な物語だったら、そう情緒的になりすぎず面白く見られそうでいいな、という気持ちからでした。なのでまだ物語が序盤の頃は先述の挿入歌が流れても、正直「ええ曲やなー」くらいに感じていたのです。しかし、後半に差し掛かったあたり、予想外に物語が哀しみを帯びてくると急激にあの曲が心に深く沁み入って来るようになっていたのでした。

完璧に美しいメロディ、儚く清楚な手嶌葵さんの歌声。情緒的で上品なアレンジ。そして、このなんとも物寂しく静かな歌詞。言葉一つ一つがしんしんと胸に積もってゆくような心ざわり。愛する人との別れなどというそんな悲しいシチュエーションなのに、あえて全体的に湿気が少なく淡々としている表現、そしてそのことがかえってこの歌の悲哀をぐんと増しているように思うのです。

言葉静かであるほど美しい旋律が映えそして哀しい。そんな曲なので、ドラマの中で堪能する以外は心の中で鳴らしていたいというこの気持ち、なんとなくわかっていただけたでしょうか。音楽と場面を心に浮かべながら一人浸っていたい。わたしにとってそんな曲なのです。時々そんな曲に出会います。

作詞はいしわたり淳治さん。やっぱりすごいです。こんなんも出来はるんですね。て、失礼か!いや、ほんまに素晴らしいです。脱帽。そして作曲の村松崇継さん。めっちゃ美しいメロディ書きはるわ、、、。脱帽。あかん、どんだけ帽子あっても足らんわ、、、。

さてもうあと1週間もしないうちに4月。わたしも脱帽ばかりしている場合ではないのであります。少しずつですが動き始めています。しっかり地に足つけてがんばってこ。

<川村結花>

◆紹介曲「ただいま」/手嶌葵
作詞:いしわたり淳治
作曲:村松崇継

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
【第1回】
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