御婦人3人組の楽しげなおしゃべりが耳に届いてきたのですが…。

 2020年は、シンガーソングライター“川村結花”のCDデビュー25周年のアニバーサリーイヤー!そこで、今日のうたコラムでは、その記念企画として1年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けいたします。更新は毎月第4木曜!
 
 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この1年の連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第9回をお届けいたします。

第9回歌詞エッセイ:「初めての君

1年のうちでわたしが最も苦手な猛暑の8月が過ぎやっと9月、、、と思っていたらもう第4週でした。びっくり。それでもまだ湿度もそこそこあり半袖でいることには変わりなく秋モノを着る気にはなれずなんとなくどっちつかずで中途半端な格好をしている昨今であります。そういえばいつだったか、「麻の白シャツに心ときめかなくなったら秋」と思ったことがあり、それを周りに言うと割と同意してくれた記憶があります。今まさにその感じ、そしてさっきキャメルの薄手ニットを見てほんのちょっとだけときめいたので、ほどなく秋風が気持ち良い季節がやってきてくれるのでしょう。まあでも多分引きこもり生活が続きそうなのでわたしにはあまり関係ないかもですが。

そう、まだ暫くはライブ活動再開の見通しが立てられないでいる状況なのですが、大変ありがたいことに作品提供の御依頼を続けて頂戴し、先月先々月同様に楽曲制作メインの毎日を過ごしております。

そんな中、先月リリースのアルバムー、ミラクルボイスの持ち主と称される新進気鋭の若手演歌歌手、中澤卓也さんのオリジナル・ファーストアルバム『歩み Part1』にわたしの提供作品(作詞&作曲)である「初めての君」という曲を収録していただきました。

2017年にデビューされ、今年活動4年目となる中澤卓也さん。NHKの歌謡番組などでよくその歌声を拝聴するのですが、トーンが明るくのびやかできらびやかでなにより爽やか。それでいてけっして大味にならず繊細な肌触り感もあり、ミラクルボイスという形容がぴったりという印象でした。加えて24歳の素敵好青年ということで、巷ではマダムキラーとも呼ばれていらっしゃるらしく、わたしも一度コンサートにおうかがいさせていただいたのですが、その呼び名に違わず客席中それはそれは華やいだ御婦人がたによる乙女の花園でありました(そしてコンサートとっても楽しかった)。

その日、開演前にちょっと寄ったカフェで、隣のテーブルにちょうど今から中澤さんのコンサートに参加される70代とおぼしき御婦人3人組の楽しげなおしゃべりが耳に届いてきたのですが、もう本当に中澤卓也さんのことが大好きで大好きでというのが伝わって来て、それがもう本当に乙女のようで、ああ、なんかいいなあ、こういうの、そしてこの方々がうっとりしてしまうような歌、夢見心地になってしまう歌、とにかく幸せな気持ちになっていただける歌を書かなければ!とすごい使命感が湧いてきたのでした。

そして出来た「初めての君」。3連のロッカバラードというのでしょうか、♪オンリ~~ユ~~~、みたいなオールディーズ感溢れるそんな曲がいいな、というのはもう最初からイメージとしてありました。そして歌詞はベテランの男性プロデューサーから「女性が言われてうれしくなる言葉がいいなあ」というリクエストがあり、それなら、ということで

初めてなのさ 初めてなんだ
そんなにまぶしい 瞳に出会ったのは

というフレーズが浮かんだのでした。

可愛いとか優しいとかセンスがいいとか、ほめられるのはもちろんうれしいこと。でももっとうれしいのはその人にとって自分は特別ということを感じさせてくれた時なんじゃないだろうかという考えに至ったからでした。「そんなこと言ったの君が初めてだよ」「そんな考え方もあるんだね、初めて知ったよ」などなど。

それは恋愛においてだけじゃなく、友人関係でも上司と部下の関係でも、同じことなんじゃないかと思うのです。もちろん恋している相手から言われたらめちゃくちゃうれしいでしょう。ただ、そんなこと言われてすっかりその気になってしまったものの、相手は別に恋愛感情で言っていたワケじゃない場合も多々あるので、そこは注意が必要なのですが。

しかし、なにしろ今回の場合は絶対的に恋愛感情でなければならず、なのでどっからどう見ても相手に恋しているということがわかる出だしの2行にしたのでした。

ということで生まれたこの曲、先述の3人組の御婦人は聴いてくださったのでしょうか。どうか聴いてくださいましたように、そして幸せな気持ちになってくださいましたようにー。

<川村結花>

◆紹介曲「初めての君
作詞:川村結花
作曲:川村結花

◆プロフィール

川村結花(シンガー・ソングライター)
大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。

オフィシャルサイト:https://www.kawamurayuka.com

◆歌詞エッセイバックナンバー
【第1回】
【第2回】
【第3回】
【第4回】
【第5回】
【第6回】
【第7回】
【第8回】