ばあちゃんは毎日「これ誰だい?」と僕に聞いてきて…

 2020年5月13日に“マイアミパーティ”が2nd E.P.『p.q.b.d』をリリースしました。彼らは、溢れる焦燥感と機関銃の様に連射される言葉を グッドメロディに乗せてリスナーの胸を撃ち抜く4人組ロックバンド。今作には、サビで爆発するキラーチューン「p.q.b.d」をリード曲とした、全6曲(新曲3曲+ライブ音源3曲)が収録されております。

 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放ったマイアミパーティの“さくらいたかよし”による歌詞エッセイを3日連続でお届け!今回は第1弾に続く、第2弾。綴っていただいたのは、収録曲「未来予報」に通ずる、彼とおばあちゃんのお話。今「生きがいがない」「生きがいがよく分からない」という悩みを抱えているあなたに届きますように。

~歌詞エッセイ第2弾~

少し前の話。おじいちゃんが天国に行ってしまい、僕がおばあちゃんと二人暮しをしていた時のこと。おばあちゃんは歳のせいで、ボケがかなり進行していた。

12月の北海道、部屋中キンキンに冷えた朝、おばあちゃんは僕に「このストーブどうやってつけるかわかるかい?教えて欲しい」と言う。僕は「このボタンを一回押せば付くよ!」と答える。おばあちゃんはボタンを押し、暖かい風が出てきたことを確認すると安心した表情でテレビに目を向ける。

これは、ある1日の話ではなく、その日とその前の日、その前の前の日も同じように、僕はストーブの付け方を教えた。毎朝、初めて聞くみたいな顔で聞いてくるから、僕も初めて聞かれたような顔で答えていた。

例えば、夜に勢い余ってお酒をたくさん飲んでしまう理由は皆違う。嫌なことがあったとか、忘れたいことがあったとか、飲みの席が楽しかったからとか、そもそも自分の適度な飲酒量がわかってないとか。始まりは皆違えど、翌朝、辿り着くところはみんな大体同じ。それはある意味、平等で満遍なく感じる。

少し例えが無理やりだったかもしれないが、そんな風に、どんな人生を送ろうと、どんな星のもとに生まれようと、みんな平等に年をとり、みんな平等に小さくなっていく。おばあちゃんを見てると、そんな風に悟ったような気持ちになる。ちなみに僕は、おばあちゃんが大好き。

おばあちゃんが、毎日同じように聞いてくるのは何もストーブのことだけじゃない。水道の止め方、トイレの流し方、鍵の開け方としめ方。そして、テーブルの上に飾ってある一枚の写真のこと。

それは、おばあちゃんとおじいちゃんが二人で写っている写真だ。それを、おばあちゃんは昼になると眺め、「この人は誰だい?」と聞いてくる。僕は「こっちが、おばあちゃんで、こっちがおじいちゃんだよ!」と伝え、写真の中のおじいちゃんを指差し「ほら!ばあちゃんのボーイフレンドだよ!」と伝える。

そうすると、「あぁそうかいそうかい!」といつも人ごとのように答える。人ごとのように答えたくせに、その写真を一時間も眺めてる。きっと少しずつ、少しずつだけど、その時の記憶や思い出や、匂いや風景を思い出してるのかもしれない。

人のことを忘れる順番というのは決まっている。まず声を忘れて、顔を忘れて、匂いを忘れる。大事だった人の顔と声と匂いを思い浮かべて見て欲しい。目は一重だったか、二重だったか、ほくろはどこにあったのか。抹茶は好きだったか、どんな声をしていたか。頭にパッと浮かんでいるようで、僕らは「思い出す」という作業をしている。無意識に。

ばあちゃんは毎日「これ誰だい?」と僕に聞いてきて、僕は毎日「あなたのボーイフレンドだよ」と伝えた。ばあちゃんは「そうかいそうかい」とだけ言い、毎日1から思い出に浸っている。

5月13日に僕がボーカルを務めているバンド“マイアミパーティ”は、CDを全国発売した。その中に「未来予報」という歌が収録されている。この曲のサビはまさに、このこと。以下歌詞引用。

“おーい いつか僕らもシワシワになっちゃって
昨日の記憶も持たないようなバアちゃんになってしまっても
君と僕とありふれた日々の写真を撮って飾るんだ
毎日1から思い出に浸れるように”


写真はもともと好きではなかったけれど、未来に種を蒔くみたいな気持ちで、たくさん撮ってみようかなと思い、最近は写真をたくさん撮ってる。

今僕の生きがいは正真正銘、音楽をやること、お世話になっている親と、友達、周りの人、LD&K(レーベル)に少しでも恩を返すこと。それがある意味、生きがいになっている。だから一生懸命毎日に意味を見出して生きていけてる。

でも、僕みたいに生きがいを見つけて生きてる人なんて、人口の10数パーセントしかいないと思ってる。実際に、「生きがいがない」「生きがいがよく分からない」という相談がかなりの数、僕の元に寄せられている。

生きがいというのは、今目の前にあるものだけではない。今、生きがいが、よく分からない人も安心して聞いて欲しい、年をとった時、昔の写真を見返して「あの時は人生で一番楽しかったなぁ」とか「ああ、これが私の生きがいだったのかもしれない」と気づく日がきっと来るだろうから。

<マイアミパーティ・さくらいたかよし>

◆紹介曲「未来予報
作詞:さくらいたかよし
作曲:マイアミパーティ

◆2nd E.P. 『p.q.b.d』
2020年5月13日発売
329-LDKCD ¥1,364+税

<収録曲>
1.p.q.b.d
2.未来予報
3.道
4.シスター Live ver.
5.レイトショー Live ver.
6.一縷 Live ver.