好きな人の前で、好きじゃない演技をしたことのあるあなた。

 2021年3月2日に“wacci”が最新の恋愛ソング「まばたき」と「劇」を2曲同時配信リリースしました。寂しさや悲しみを吐き出せないなか“一人じゃない”と寄り添ってくれる、あったかい楽曲「まばたき」と、叶わない恋愛を“演劇”に例えて歌った極上のバラードソング「劇」という、対照的なテーマを描いた楽曲となっております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“wacci”の橋口洋平(Vo.)による歌詞エッセイを2日連続でお届け!今回はその【前編】です。綴っていただいたのは、新曲「」のお話。本当はあのひとと“恋人”という関係になりたい、でも、なれない。だから必死に“友達”としての自分で在ろうとする。そうやって今、誰かの前で自分を演じながら生きているあなたに、この歌とエッセイが届きますように。

~歌詞エッセイ前編:「」~

たいていの「人と人の繋がり」には名前がついている。

家族、友達、恋人、
同僚、同級生、幼馴染、顔見知りetc...
更にここから「同僚の先輩」や「元同級生」と
いったように細分化されていったり、
はたまた単純に一言二言では語れないような関係性も
世の中にはたくさんあるのだろうが、
大まかに分類すると、ある程度限られた中で
説明できるものが多いと思う。

そして、その関係性によって、
人は少なからず自分を演じ分けている。

家族といる時の自分。友達といる時の自分。
恋人といる時の自分。仕事をしている時の自分。

もちろん、まったく表裏がなく、誰に対しても
同じように接せられる人もいるかもしれないが
上下関係や親密度、過ごした時間の長さなど、
それぞれにレベルが異なる中で
全て「同じ自分」で繋がりを持続させていくのは
ほぼ不可能なのではないかと思う。

きっと僕らはいくつもの「繋がり」を、
いくつもの「自分」を使い分けながら
作り上げ、維持していく。


さて、そうして割り振って大事にしてきた
人間関係や、自分の役割を大いに揺るがしかねない、
ある意味面倒な感情が一つあるとすれば、
たぶん「恋」だ。

同僚、友達、幼馴染。家族は置いておくとして、
それ以外の多くの繋がりにおいて
恋は、恋人以外ではなかなか両立しない。
そのため、気持ちを抑え込んだり、
逆に関係が壊れる覚悟で想いを伝えたり
逆にそれでも無理矢理
両立させようとして、全てを失ったりと
様々な歪みを起こす、とても厄介なものである。


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今回の新曲「劇」は
まさにそんな、恋が生んだ悲劇を歌っている。

つまり関係性としては「友達」なのだが
そこに恋という、「友達」のままでは
成立しない感情を抱いてしまった女の子が
「恋人」にはなれない or なろうとしてはいけない
とわかっているからと必死に「友達」としての自分を
演じ切ろうとしている歌である。


相手の男には彼女、つまり恋人がいて
自分はなんでも話せる女友達の一人。

“いつだって突然だね あなたが私を誘う時は
そんなに暇じゃないんだよ あなたの前で以外は”

“大事にしなよって私 あなたを諭しては胸をゆがませて”



でも向こうはこちらの好意にきっと少し気づいている。
だからこその、ズルい距離感が、苦しくて愛しい。

“あなたを好きになるわけにはいかないの私”

“あくまで主役はあなたとあの子 台詞は間違えないよ”



自分で自分に言い聞かせるように
何度も役割を確認しながら、
あなたを終電で見送った後に、ひとりぼっちになって初めて
悲劇のヒロインという形で主人公になれる。

“ここから先は悲劇のヒロインをやらせて
誰にも知られず終わらせるから”


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人は少なからず、
いくつもの自分を演じながら生きている。

関係を守るために、気持ちを抑え込んで
一生懸命に笑ったことはないだろうか。

誰かにとっての自分の「役」に徹するために
心を隠したことはないだろうか。

時にもどかしさや、やりきれない気持ちを
抱かせるそれらの出来事が
きっと僕らを成長させると信じている。


好きな人の前で、
好きじゃない演技をしたことのあるあなたが
その時の恋を、そっと抱きしめてあげたくなるような
そんな歌になれば嬉しい。

<wacci・橋口洋平>

◆紹介曲「
作詞:橋口洋平
作曲:橋口洋平

◆「劇」Music Video
https://youtu.be/Aa87MdgHozA