人間に心と体があるように、歌にも心と体があるとしたら。

 2020年5月1日に“植田真梨恵”がダブル配信シングルをリリースしました。「WHAT's」は、映画『ミセス・ノイズィ』の主題歌。そして「I JUST WANNA BE A STAR」はドラマ『ピーナッツバターサンドウィッチ』エンディング主題歌です。また現在、絶賛アルバム制作に入っているという彼女。近々発表されるであろうアルバムを楽しみに、まずは今年の第1弾リリースとなった2曲を是非、歌詞と併せてチェックしてみてください…!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“植田真梨恵”による歌詞エッセイを3ヶ月連続でお届けしてまいります。今回は第1弾に続く、第2弾!綴っていただいたのは、新曲「I JUST WANNA BE A STAR」にまつわるお話。彼女にとっての、歌詞とは?メロディーとは?歌とは? みなさんにとって、音楽とはどんな存在のものでしょうか…。

~歌詞エッセイ第2弾:「I JUST WANNA BE A STAR」~

歌詞。アルバムを作っている。おおむね全ての曲の歌詞を書き終えた。歌詞を書きながら、自分の中にある自分でも気付いていなかった気持ちに出会う。書き上がるまで自分でもそれがなんのことなのかわからない。その大きなものをなんとか操縦しようとしても、そんなにうまくいくことはない。とにかくからっぽの器を、気の力だけをつかってガタガタ震わせるようなつもりで、心に圧をかけて歌詞を書く。

思ったけど、歌詞は体だと思う。人間に心と体があるように、歌にも心と体があるとしたら。以前は考える余地もなく、ただなんとなく、歌詞が心だと思っていた。けど違うなと思った。心はメロディーのほうだ。浮遊している霊魂みたいに、メロディーは漂っている。意外と、それが入るべき、おさまるべき型のような、体のようなものが歌詞のように感じた。なぜか。歌詞はひとめ見て一読することができる。もちろん、1行ずつ味わうこともできるけど、決められた時間軸はなく、パッと目で見て文字が羅列されている、見てくれである。

体がないと、メロディーはふわふわ浮いているだけだ。そのふわふわ浮いているメロディーは、目には見えない。だいすきな人と話をするみたいに、すこしずつ心に触れるように、時間をかけてメロディーが入ってくる。歌詞を書くというのは、その心がおさまるべき、美しい腕や目や口や腰を形作るような感じがした。だからなんなんだ。だからなにというわけでもない。とにかくお互いがないと歌にはなれない。

最近こんなことを感じたのにはわけがあって、今作っているアルバムの中で初めて、人様に書いてもらったメロディに対して歌詞を書いている。基本的にわたしはふだん、メロディと歌詞をほとんど同時に書いていくことが多いので、独立したメロディーに歌詞をあてがうことがとても難しかった。しかしおもしろかった。久しぶりに次に曲を書くとすれば、歌詞の方を先に書いて歌にしたいな。

今から8年前、21歳の頃に24時間ぶっとおしの生配信を行なった。配信中はいろんな企画をして過ごした。なんでそんな企画が持ち上がったのかももう覚えてないけれど、久しぶりに、そんな24時間生配信企画をやろうという話が出た。せっかく24時間かけて配信をするならば、何かをつくる工程にしようとなった。何かを作るならば、歌にしよう。歌をつくって、アレンジをして、レコーディングをして、もしかしたらミュージックビデオまで作ってしまえば、配信終了とともにそのまま、できたてほやほやの歌を他の曲とおんなじようにお届けできるかもしれない。そうやってできた曲が「I JUST WANNA BE A STAR」だ。

日頃から「どんな曲にする」という構想を持って作り始めることがないので、この日もなにも考えずに画面の前で作り始めた。というか、作り出してみないとどんなものになるのかまったくわからない。でも、せっかくみんなが画面越しに観ていて、コメントを送ってくれるなら、観てる人たちからコメントで飛んで来た歌詞のイメージを一曲にまとめられたら素敵じゃないかと思った。それで、その当時わたしの心の中におおきくドンと幅をきかせていた「わくわくすること」というのをテーマに、観てる人たちからたくさんのイメージをもらった。

「わくわくすること」と一言で言っても、どんなイメージにもなりえる。それこそ人の数だけわくわくはあるだろう。断片的にイメージを拾っていくうち、ちょっと悪いことをしているような、夜に車を飛ばしてひとつのミッションを遂行するような、そんなシチュエーションだとわたしもわくするな、と思いながら歌詞のイメージが膨らんでいった。作りながらそのイメージを、観てる人たちとどれくらい共有できていたのかはわからないけれど、なんというか、結果的にものすごく素直な歌ができた。

人前で作詞作曲をするというのはやったことがなかったので、まずそもそも一曲できあがるのかまとまるのかもわからないし、集中力が何回も切れかかった。けどまあなんとか、ひらめきとかアイデアのしっぽを、ひっつかむような感じでできあがった。時間の限りがあることによって、普段ならもっとかっこつけてしまうところがそうはいかず、より素直な歌詞になったのかもしれない。たくさんの人のイメージが含まれたことによって、大声で歌えるような大きな私の願いを歌って、大切な曲になるようにしたいと思えたのかもしれない。いろんな要素がふくまれて、ぎりぎりのバランスで一曲になっている。

私が歌のことをものすごく、すきだなって感じる部分がある。たかが歌、されど歌なのだ。別に誰かを感動させる決まりなんかなくて、むしろ何の意味もなくたっていい。でも何の意味もなくただ好きなことばたちが羅列されただけでも、メロディといっしょになるとそれはもう歌になる。逆に好きなだけ疑って、こだわってもいい。でも好きなだけこだわったところで、それが人に届くかなんてわからない。もっというと人に届かなくたっていい。誰にもわからなくってもいい。なのに、ものすごく、わかるなって瞬間がやってきたりもする。ぜんぜんわかんなくたって、なんかすっごい好きっていう場合もある。

好きな人のどこが好きなのかうまく言えないみたいに、共に過ごした年月や巡り合わせで、大切に思う歌が私にも何曲も思い浮かぶ。たったの5分弱でいくらでも、何回でも、気が済むまで心に抱きしめられる。これからどれくらいの歌を、どんな歌を書いて歌って死ねるだろうかと思う。まだ今の私には、なんにもわからない。できるだけいっぱいの歌を作りたい。満足いくまで歌って死にたい。

<植田真梨恵>

◆紹介曲「I JUST WANNA BE A STAR
作詞:植田真梨恵とみんな
作曲:植田真梨恵

◆ダブル配信シングル
「WHAT's / I JUST WANNA BE A STAR」
2020年5月1日発売