悲しいかな、離れてしまっても生活も人生も終わらない。

 2021年12月29日に“reGretGirl”が1st EP『生活e.p.』をリリースしました。作詞・曲を手掛ける平部(Vo.)が得意とする「リアリティのある失恋ソング」を追求した全4曲を収録。楽曲世界の舞台は、アートワークでも写っている平部の地元、大阪・和泉府中です。この地で起こった“一つの恋の終わり”を追体験できるような内容となっております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“reGretGirl”の平部雅洋による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は【後編】です。綴っていただいたのは、3曲目「LDK」と4曲目「オールディーズ」のお話。それぞれの歌の“生活”がより鮮やかにくっきりと見えてくる歌詞エッセイ。是非、歌詞と併せてお楽しみください。


―「生活e.p.」後編
 
~M.3「LDK」~
 
“できる時にできる人がやる”制度で行う家事も気がつけば家にいる事が多い僕の仕事になっていた。メイク道具を前に朝の顔から昼の顔へ変わっていく様子を眺めていると、今日の天気予報がテレビから聞こえてくる。午後から雨が降るらしい。
 
バタバタと家を飛び出していく姿を見送り、洗濯物を部屋に干しはじめた頃、「傘忘れた…(泣)」と連絡が入る。「また?(笑) 帰り駅まで迎えにいくから今日も仕事がんばっといで」と機嫌を取るような日々を送っていた。
 
ふたり同じリズムで過ごしていくうちに、見えるようになったものと、見えなくなっていくものがあった。顔には出さない不安は部屋の彼方此方に隠れていて、共に暮らす様になるまで気が付かず、全てを曝け出せない君の思いやりの様なものは、毎日一緒にいるのに遠くにいるように感じさせた。
 
美味しくできあがった日も美味しくできなかった日もその料理の愛情を食べているのだと思えば、それだけで毎日が満たされていたはずだったのに。
 
 
~M.4「オールディーズ」~
 
新しい靴を買った。帰り道に見た夕焼けが綺麗だった。誰かに見せるわけでもない写真を撮ってしまうのは、以前は見せる相手がいたからで、今は写真を撮る癖だけが残っている。
 
「アナタは本当優しいから」と言った君の優しさが、耳元を飛び回る羽虫のブーンという音の様に鬱陶しく頭の中で鳴り続ける。見上げた夜空は雲ひとつなく澄んでいて、半分に欠けた月明かりが窓から差し込む。眠れない夜は美しい光を浴びても報われはしない。“取り戻す”という救われる唯一の方法は有るはずなのに無いに等しいからだ。
 
色褪せるしかない記憶の干渉に浸っているのもどうせ僕だけなのだろう。同じ時間を同じだけ過ごして来たのに、どうしてひとりで打ち拉がれているのだろうか。いくら足掻いても無かった事にはできないのに、どうして僕を置いていったのだろうか。
 
 
生活は都合良く変貌しなかった。お互いの人生を委ね合う覚悟と責任から逃れようと、必死で抱き合った日々には虚無が待ち構えていて、臆病な愛情は日常の上で静かに崩壊していく。か細い一本の糸でしか繋がれないふたりは、「ずっと一緒にいられる」と己に嘘をつき、薄っすら遠くに見え続ける終わりに向かって歩いていた。“あの時つき合った嘘”とは互いが自分についた嘘だったのだ。
 
悲しいかな、離れてしまっても生活も人生も終わらない。“Life goes on”ふたりの人生は交わらない別の所で続いてゆく。
 
<reGretGirl Vo./Gt 平部雅洋>



◆紹介曲
LDK
作詞:Masahiro Hirabe
作曲:Masahiro Hirabe

オールディーズ
作詞:Masahiro Hirabe
作曲:Masahiro Hirabe

◆1st EP『生活e.p.』
2021年12月29日発売
完全限定生産盤 COCP-41654 ¥3,850(税込)
 
<収録曲>
1.ロードイン
2.シャンプー
3.LDK
4.オールディーズ