みちみちしているところが、好きだ。部屋の話である。

 2020年10月28日に、歌とアコーディオンの姉妹ユニット“チャラン・ポ・ランタン”がニューアルバム『こもりうた』をリリースしました。今作のコンセプトは、自粛期間中に制作した「こもりうた」。全ての収録曲を宅録にてチャラン・ポ・ランタン2人で完成させた作品となっております。是非、その楽曲と歌詞をご堪能ください!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“チャラン・ポ・ランタン”による歌詞エッセイを2週連続でお届け!今回はももが執筆を担当。綴っていただいたのは、今作の収録曲「ゆううつなデイ」に通ずるお話です。みなさんにも、自分だけがわかる、自分の好きなもの、好きな感覚ってありませんか…?

~歌詞エッセイ:「ゆううつなデイ」~

みちみちしているところが、好きだ。

部屋の話である。

六畳一間のあの部屋が、過去住んだ部屋の中で、一番のわたしのお気に入りだった。服や物に囲まれて、それはもう、みちみちの最上級だったからだ。ごちゃごちゃしていたかった。ガラクタだらけのゴミ屋敷に見えるかな、その部屋でだらだらする時間こそわたしにとって贅沢なものだった。自分の居心地の良さに、息のしやすさに、こんなにも当てはまる空間は他には無かった。

生活もおんなじだ。ちょっとも、すかすかしたくない。みちみちした、忙しない日々が一番に心地良い。その中でだらだらとしていたかった。矛盾のかたまりかな、落ち着きのない生活の中で不意にでるため息ほど、気持ちいいものは無いと思っていた。

そんなふうにこんな感じに好きな物を好きだと分かっていながらも、新しいものを好きになってもみたかったわたしは、みちみちした日々をくぐり抜けながら、お洒落なマンションにも住んでみたことがあった。新しくて広くて綺麗な部屋だった。友達を招くとみんな羨ましがった。こんな部屋に住んでみたいと、みんながそう言ってくれた。実際確かにいい部屋だった。わたしもみんなとおんなじように、そう思っていたんだ。それでも一年も満たないある日、ふとした瞬間に思った。

「たいくつ」

壁も、床も、ドアや、照明に天井まで、なにからなにまで全部、全部綺麗で素敵だった。でもなんだろう。そのひと言しか出てこなくなったのだ。一度、退屈だと思ったその瞬間から、今度は憂鬱が押し寄せてくる。この、心にヒューっとすきま風が吹く感覚が分かるだろうか。退屈ほど、憂鬱なものは無い。どこからなのか分からない、すきま風の止まない心は、確実なる、すっかすか、だった。すかすかした空間で、だらだらとしたところで、それはただ何でもない、何でもないそれでしかない。興味がなかった。

しかし、そんな時に限って、不思議なことにびっくりするほどの運命的な出逢いをしたりもする。築50年のその部屋は初めて入ったその瞬間から鈴の音が鳴った。心がときめくと鈴が鳴るのは小さな頃からずっと変わらない。一瞬で心にみちみちを取り戻したのである。何がどう、とかは言葉にはできない。とにかく自分の中の「好き」がはっきりと分かった出来事だった。

すかすかしているところは、好きではない。

部屋の話である。

<チャラン・ポ・ランタン もも>

◆紹介曲「ゆううつなデイ
作詞:もも
作曲:小春

◆ニューアルバム『こもりうた』
2020年10月28日発売
AL+DVD AVCD-96587 ¥3,700+税
AL+Blu-ray Disc AVCD-96588 ¥5,000+税
AL AVCD-96589 ¥2,500+税

<収録曲>
1. 空が晴れたら  
2. 進捗インジケータ 
3. 透明の恋 
4. ゆううつなデイ 
5. おとなの螺旋階段のマーチ
6. ハッピーマイサマーダーリン 
7. 新宿で映画を観る
8. あの丘の向こう
9. ルージュの伝言 (bonus track) 
10. Bonetrousle (bonus track)