自分の死を設計するというのは、とても贅沢なことではなかろうか。

 2019年10月9日に“黒木渚”が、ファン待望の4年ぶりとなるニューアルバム『檸檬の棘』をリリースしました。さらに、11月5日には新作小説『檸檬の棘』を刊行。2020年には2年ぶりとなる単独公演も決定。目が離せない活動内容となっております。さて、そんな彼女が【今日のうたコラム】のために、今作収録曲にまつわる歌詞エッセイを執筆!
 
 スペシャルな内容を、3週連続でお届けしてまいります。今回はその第1弾。綴ってくださったのはアルバムリード曲「美しい滅びかた」についての想いです。歌詞と併せて、じっくりとご堪能ください。

~M-2:「美しい滅びかた」歌詞エッセイ~

ある日、祖母が突然「遺影を取ろうと思うんだけど」と言いだした。

祖母は今年で93歳。彼女が近頃、自分の死後に備えて身辺整理や葬式のための積み立てをしていることは知っていた。けれど私はあえてそのことには触れずに生活していた。

理由は簡単である。おばあちゃんが死ぬ、なんて考えるのも嫌だからだ。

かなりの高齢ではあるが心身ともに頑丈な祖母。シングルマザーである母が外で働く代わりに、家のことはほとんど祖母がこなしている。絵画や小説が好きで、戦前は歌劇団に所属していたり、結婚してからは日本舞踊の先生をやったりと芸術気質なところもある。

私は祖母の影響を多分に受けて育った生き写しの孫娘なのだ。そのせいか、祖母とは精神的、感覚的に深く結びついており、なにかにつけて共鳴しあってしまう。

くだんの遺影の話題に正面から向き合えなかったのは、祖母の死という不吉な予感を遠ざけたいという思いと同時に、私にも「死」という絶対的な結末が待っていることを再認識してしまったからかも知れない。

そんな孫の思いなどつゆ知らず、祖母は意気揚々と遺影についてのプランを語り始めた。いざ話を聞いて驚いたが、祖母は「ギャグ遺影」を撮りたいと言うのである。昔ながらの幽霊が額に付けている三角の布(天冠というらしい)と白装束で写真を撮りたいと。湿っぽい葬式は嫌だし、参列した人も笑えて良いだろうという発想からだそうだ。
  
大笑いする私に、大真面目な顔で説明する祖母。彼女は既に音楽葬のできる斎場まで見つけていた。葬式の段取りをあれこれ決めているらしく、出棺の時は私の曲である「骨」を歌いながら賑やかに送り出してくれと言うではないか。

我が祖母ながらなんとチャーミングな。自分の死さえ楽しもうとするその姿勢、貪欲さには脱帽である。

そしてふと思った。自分の死を設計するというのは、とても贅沢なことではなかろうか。人生のたたみ方、自分がどう滅びてゆくかをじっくり考える余裕があること自体が幸せなのだ。

私が死んだら心臓はコニャックに漬けて
レモンの木の下に埋めてね


私の思う理想の滅びかたはこうだ。美しく生きて、美しく滅び、永遠にとろりと濃い酒の中に浮かんでいたい。

<黒木渚>

◆紹介曲「美しい滅びかた
作詞:黒木渚
作曲:黒木渚

◆ニューアルバム『檸檬の棘』
2019年10月9日発売
初回限定盤A ¥3,600+税
初回限定盤B ¥3,600+税
通常盤 ¥2,600+税

<収録曲>
01. ふざけんな世界、ふざけろよ
02. 美しい滅びかた
03. ロックミュージシャンのためのエチュード第0楽章
04. 檸檬の棘
05. Sick
06. 彼岸花
07. 原点怪奇
08. 火の鳥
09. タイガー
10. 解放区への旅