性根が腐っているので、じゃあどうしてやろうと考えたわけです(笑)。

 2019年6月19日に澤部渡によるソロプロジェクト“スカート”がニューアルバム『トワイライト』をリリースしました。今日のうたコラムでは、そのインタビューを第1弾~第4弾に分けてお届けいたします!第1弾ではスカートの軌跡と音楽性について、第2弾&第3弾ではニューアルバム収録曲について、第4弾では澤部さんの作詞論についてお伺い。本日は、第3弾をご堪能ください!

― アルバムでもっとも暗く響く「花束をかえて」の前に収録されている「それぞれの悪路」も悲しい響きを持っていますが、これはどんなきっかけから生まれたのでしょうか。

これはねぇ…、お話しようか迷ったんですけど、うちの実家で飼っていた猫が死んじゃって。それを歌えないかなと思ったことがきっかけなんです。でも直接的すぎるとあからさまに悲しいだけの歌になっちゃうから、いろいろ考えたんですね。で、実家から「そろそろ猫がダメかも」と連絡をもらって「わかった、今すぐ行きますわ」って高速道路に乗って、実家へ向かったときの気持ちを思い出したんです。

その高速がなんというかねぇ…今まで走ったことがないような道に思えたんですよ。そこでふと浮かんだのが、サン=テグジュペリの『夜間飛行』という小説で。荷物を運ぶ飛行船で働いているひとの話なんですけど、彼らは危険な仕事に携わっているんですよ。いや、これは話すと長くなる(笑)。とにかくその小説になぞらえながら、猫の死をなんとか歌詞にできないかと思って出来上がったのがこの曲なんですよね。

過ぎてゆく時間と
折り合いがつかなくて
頭の中ではオンボロ飛行機が往く
何処へ急ぐ?

ああ この窓から
君の街が見えたらいいのに
ああ きっと違う道だってあったな
雲の切れ間 見つけたいのに
「それぞれの悪路」

― お話を聴いてから改めて歌詞を読んでみると、すごく腑に落ちます…。

あと、飛行機で雲の上に行ったとき<雲の切れ間>があれば、そこに山脈とか障害物がないとわかって、下に降りていくことができるんですね。でもそれがないと、ずっと切れ間を探して飛び続けるか、イチかバチか突入していくしかないんです。そのうちに燃料が切れそうになっていく…というイメージで。実は曲も、よく聴くと最後の1音まで演奏しているのってドラムだけなんですよ。最初にギターがいなくなって、次にベースもいなくなって、だんだん飛行機の部品がボロボロ落ちていく状態を表現してみました。

― 悲しい…。

そうそう、そういうあらゆる部分で悲しみを表した曲なんですよ。これは地味だし、あまり多くのひとに好かれる歌詞ではないと思うんですけど、とっても気に入っていますね。この歌だけは自分で録音もしているんですよ。パーカッション以外の全部の楽器。すごくプライベートなことが源になっている歌だからと思って、最初からこれだけは自分で録ることを決めていましたね。

だから「花束にかえて」も含め、わりとアルバムのB面は暗いです。スカートのアルバムは毎回、前半後半をA面B面として考えて曲順を組んでいるんですよ。B面は「高田馬場で乗り換えて」で少し景気のイイ感じで幕を開け、「ハローと言いたい」「それぞれの悪路」で徐々に落として、「花束にかえて」を最も暗く聞かせて、そして「トワイライト」がエンドロールで、「四月のばらの歌のこと」は後日談みたいな位置づけです。

― なるほど!最後の「四月のばらの歌のこと」は解釈が難しかったのですが、後日談というイメージだったのですね。

そうなんです。作詞という面だと、この歌が昔の歌詞に近いかな。すごく抽象的ですよね。わりとここ最近は物語っぽく書いているつもりだったので、そこからハミ出た、昔のやり方で1曲書きたいと思って。スタジオの空き時間でスラスラっと書きました。

― では、アルバムのなかで「書けて良かった」と思うフレーズを教えてください。

もう違う景色か
それでも夕暮れは私たちを等しく染めない
「トワイライト」

ここかなぁ。当たり前のことなんだけど、別々の場所にいれば、たとえお互いどんな景色を見ていようが、どんな気持ちでいようが、夕暮れには等しく染められないんだと。かなり良い表現ができたなと思っています。あとは「沈黙」で急に<不安になる>って言い出すのもすごく好きなんですよね。

破れた金網の 隙間から何が見えた?
ああ なんて言葉! 不安になる
「沈黙」

― その前の<ああ なんて言葉!>というフレーズで、主人公はどんな言葉を聞いてしまったんだろうかという想像も膨らみます。

ね(笑)。もしかしたら<口に出せば 消えてしまいそう>な言葉だったのかもしれないし。あと誰かに言われたんじゃなくて、こんなことを言おうとしてしまった自分に対する言葉なのかもしれないし。さらに、スカートの歌詞であまりなかった表現としては「高田馬場で乗り換えて」で“環七”って道路の名前をふいに入れられたのも良かったな。

この歌は“マルコメ”味噌のタイアップで書いた曲なんですけど、ほとんど制約がなかったんです。歌詞に少しでもマルコメの要素があれば何でも大丈夫みたいなことを言われて。自分は性根が腐っているので、じゃあどうしてやろうと考えたわけです(笑)。で、マルコメの本社が高田馬場にあるところに目を付けたんですよ。

いちばん 好きな コートを羽織って
いつもの通り 高田馬場で乗り換えれば
馴染みの発車メロディが 背中を押すんだ
「高田馬場で乗り換えて」


― あ~!だから“高田馬場”なんですね!

で、西武新宿線の高田馬場駅の<発車メロディ>はマルコメCMソングの“マルコメマルコメマルコメマルコメ~♪”なんですよ。出来上がったときは「やってやったぞ!」と思いました(笑)。この目線で書くひとはいないだろうなぁって。そして、こんなふうに東京のローカルを歌えるというのも、東京のローカルバンドとしての役目だったんだろうとも思いますし。今回のアルバムではそんな歌も収録できてよかったです。

【第1弾】はコチラ!
【第2弾】はコチラ!
【第4弾】はコチラ!

(取材・文 / 井出美緒)

◆Major 2nd Album『トワイライト』
2019年6月19日
初回限定盤 PCCA-04799 ¥3,200+税
通常盤 PCCA-04800 ¥2,600+税

<収録曲>
01.あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)
02.ずっとつづく
03.君がいるなら(映画『そらのレストラン』主題歌)
04.沈黙
05.遠い春(映画『高崎グラフィティ。』主題歌)
06.高田馬場で乗り換えて
07.ハローと言いたい
08.それぞれの悪路
09.花束にかえて(映画『そらのレストラン』挿入歌)
10.トワイライト
11.四月のばらの歌のこと

【アルバム歌詞一覧】