全部捨てて音楽に身を捧げろと、他でもない私自身が叫んでいた。

 2021年7月7日に“黒木渚”がNew Full Album『死に損ないのパレード』をリリースしました。今作には、昨年から今年にかけて配信された「ダ・カーポ」「竹」や、ツアーメンバーと即興でリアレンジした「あたしの心臓あげる(midnight ver.)」など全8曲が収録。何度だってくたばってまた立ち上がる、黒木渚が贈る生命賛歌を受け取ってください。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“黒木渚”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作の収録曲「心がイエスと言ったなら」に通ずるお話です。かつて、音楽で生きてゆきたい気持ちと安定志向との狭間で戦っていた彼女だからこそ、生み出すことができたこの曲。人生の帰路に立っている方、とくに学生から社会人になる上での選択肢に悩んでいる方へ。この歌詞とエッセイが届きますように…!

~歌詞エッセイ:「心がイエスと言ったなら」~

誰しもが成長の過程で「自己実現」の壁にぶち当たる。

理想の自分を思い描くと同時に知らしめられる現実とのギャップ。完全なる自己実現を果たした人間がこの世界にどれほどいるのだろう。

我々は思い通りにならない人生に翻弄されながら生きている。時には成功している人へのルサンチマンを抱えたりして。

例えばここに、音楽で生きてゆきたい私がいる。

中高一貫の厳格な学校に通い、奨学金で大学に進み、欲を出して大学院にまで行ったくせに、私は音楽を諦められなかった。体に染み付いた優等生のペルソナと安定思考は、なかなか抜けてくれず結局、地方公務員として市役所に就職した。

働きながら、いつも音楽のことを考えていた。
作りたくて作りたくて、時間が足りない。

休日にはギターを抱えてステージに立った。もちろん本業は公務員だから、趣味として活動していたわけだが、小さなライブハウスのステージでスポットライトに照らされているときだけが、本当の自分でいられる時間だった。

頭では分かっている。
音楽で生きていくなんて大それた夢物語だと。

このまま真面目に働いていれば、不自由なく生活できるだろうし、家族だって安心してくれている。いずれは同じ公務員の誰かと恋愛して、結婚して、子供も産んで、安定した家庭を築き、マイホームを建て、幸せに暮らしてゆけるかもしれない。

でも、ダメだった。
深い場所が安定を拒絶している。

これまで得たものも、築いたものも全部捨てて音楽に身を捧げろと、他でもない私自身が叫んでいた。

諦めにも似た気持ちで辞表を出したとき、この先行き倒れになるかもしれない自分の人生が誇らしく思えた。

私は一回制の命を尊んでいる。そう実感できた。死にたがりだった少女時代が可笑しく思えるほど、私は思うままに生きようとしている。

新生活のために買い揃えた家電も、初任給で買ったおしゃれなインテリアも全部捨てて、楽器だけ持って東京に飛び出してきた日。心細さとともに、清々しい気持ちがあった。

なんと身軽でわがままな人生だろうか。

私の心は音楽に対してイエスと言い続けていた。その声に従って行動したことが、今の私を支えている。曲をつくるたびに、大きな声で歌うたびに、今だにイエス、イエスと言い続けているのだ。

迷いの中で答えを探している人がいたら、この曲を聴いてほしい。あくまでも黒木渚からの提案ではあるけれど、経験則や実感を込めて贈りたい声援だ。

<黒木渚>

◆紹介曲「心がイエスと言ったなら
作詞:黒木渚
作曲:黒木渚

◆「心がイエスと言ったなら」MV
https://youtu.be/zWSDwrpyeIY

◆New Full Album『死に損ないのパレード』
2021年7月7日発売

<収録曲>
01. 心がイエスと言ったなら
02. 竹
03. モンロー
04. 合わせ鏡
05. 象に踏まれても
06. ダ・カーポ
07. あたしの心臓あげる(midnight ver.)
08. 死に損ないのパレード

◆黒木渚「死に損ないのパレード」発売記念配信トークイベント&サイン会
開催日時:2021年7月22日(木・祝)19:00〜
配信内容:アルバム公開インタビュー
イベント特典:ネーム&直筆サイン入りアザージャケット
詳細は→https://tower.jp/article/feature_item/2021/05/21/0703

◆初のFC限定単独公演!黒木渚 ONEMAN LIVE 2021「死に損ないのパレード」
日時:2021年10月3日(日)開場17:00 開演17:30
会場:東京キネマ倶楽部
※有観客チケットはファンクラブ限定発売。即日入会可。
https://sp.lastrum.co.jp/kurokinagisa/