常々、音楽を通して“自分じゃなくなりたい”と思っている。

 2019年6月19日に澤部渡によるソロプロジェクト“スカート”がニューアルバム『トワイライト』をリリースしました。今日のうたコラムでは、そのインタビューを第1弾~第4弾に分けてお届けいたします!第1弾ではスカートの軌跡と音楽性について、第2弾&第3弾ではニューアルバム収録曲について、第4弾では澤部さんの作詞論についてお伺い。まず本日は、第1弾をご堪能ください!

― 澤部さんは2006年からこのプロジェクトを始動させたそうですが、今さらながら、なぜ“スカート”というアーティスト名になさったのでしょうか。

当時は単に思いつきだったんですよ!大学で音楽活動をスタートするにあたって、何かバンド名を考えなきゃなぁと思ったときに、パッと“スカート”って良いんじゃないかなと。でも後付けで考えてみると、子どもの頃からずっと女性的なモノへの憧れが強いということは理由のひとつだったかもしれません。セクシャルな面ではなく純粋に「どうして自分は女性ではなかったんだ?」という気持ちがどこかにあって。その思いの象徴が「スカート」という言葉だったんじゃないかなと。

― もう高校の頃から宅録はなさっていたんですよね。一番最初にオリジナル曲を作ったのもその頃でしたか?

遊びで作ったものならもう少し前にもありましたけど、今でもちゃんと形として残っているような曲を作り始めたのはその頃からだと思います。歌詞は今よりもっと抽象的でしたね。まぁ今でもそうなんですけど、何を言っているのかよくわからない感じといいますか(笑)。かつ、情景というより、もっと感情寄りでした。あとは単純に言葉の雰囲気だけで綴ったりとか。そういう歌詞が好きなんです。

― 他のインタビューで「いまだに誰がスカートを聴いているんだろうと思っている」とおっしゃっていたのを拝見したのですが、そもそも作り始めた当初は“こういうひとに聴いてほしい”というような願望ってありましたか?

う~ん、難しいなぁ、あったのかなぁ…。僕はどういうつもりで作っていたんだろう。いや、なんか…自分のためだった気がしますね。自分が聴いて、自分が良いと思うものを作っていたと思います。実際に出来上がったものを何度も繰り返し聴いていましたし。

― ご自身が好きなものとはどのような音楽だったのでしょうか。

ずっと意識していたことがひとつあって。僕の同級生や先輩は、わかりやすくロックやパンクにかぶれて、いわゆる「学校なんてつまんない」とか「大人は敵」とかそういう反発心を歌っていたんですね。でも、それって絶対に10年後に同じ気持ちではないじゃないですか。だから自分は、10年20年経っても、同じ気持ちで歌えるものを作りたいと思ったんです。もちろん最初の頃の歌詞を今読んでみるとちょっと照れくさいところはあるんですけど、でも不自然ではないというか。

― 先ほど「昔の歌詞は今よりもっと抽象的だった」とおっしゃっていましたが、澤部さんの歌詞は今でも設定や物語をあまり固定しすぎないところが魅力のひとつだと感じました。

はい、しっかりと描き切ってしまうよりは、それぞれの尺度で聴くことができるものにしたいということは未だに思っていますね。性別や結末もボンヤリさせることが多いです。ただ果たしてそんな歌をどれだけのひとが必要としているのか…(笑)。

― そんなネガティブな…(笑)。

なんか…やっぱりインディーズでやっていた頃と違って、少しずつ聴いてくれるひとが増えてくればくるほど、音楽って“共感”とか“共有”の重要度が大きいんだなって実感するんです。そして悲しい気持ちになるんです(笑)。僕としては、そうじゃないと思っていたんですけどね。大人になるにつれて、あぁみんなそういうものを求めているのか、と。

― 澤部さんにとっては、音楽ってどのような存在・役割のものなのでしょうか。

音楽を聴くことによって、自分の視点じゃないものが手に入ることが新鮮だと思うんですよね。それがすごく気持ちいいなぁって。マンガとか映画とか文学とかでも同じなはずなんですけど。でもなぜか音楽だけは、聴いているひとに“寄り添う”という役割を強く求められている気がして。その事実を、最近までは自分の中でも掴めていませんでした。でもまぁ、どうしたって僕はその“共感型”の音楽に寄ることはできないので、しょうがないなという気持ちなんですけどね。

― 歌詞の中で、感情の面だとどこを切り取って描くことが多いですか?

そこもまた「哀しみ」とか「怒り」とかわかりやすく一つの感情を描くことって少なくて、あらゆる感情の中間を表現している歌詞が多いと思いますね。昔はよく「曇天の美学」だとかいう話をしていました。晴れてもいないし、雨も降っていないという。そのときそのときの微妙な感情の揺れを、普段みなさんが耳にするような言葉で表現して、ザラつきを持たせられたらいいなと。そういう性質がずっとスカートの音楽にはあると思います。

― また、歌詞を読んでいて、澤部さんご自身の気持ちを全面に描いている曲って少ないような気がしたのですが。

そうそう、その通りです。とにかく僕は常々、音楽を通して“自分じゃなくなりたい”と思っているので(笑)。だから描くのはあくまで歌の登場人物の気持ちです。自分が思っていることなんて、1曲のうちに1割も入っていないですね。あんまり「自分はこうだ!」みたいなことを書くのも得意じゃなくて。アーティストによっては、そこに今の自分の一瞬を記録するという美しさもあると思うんですけど。僕の場合はそれよりも“長く聴けるものを”という気持ちが強いんですよね。

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(取材・文 / 井出美緒)

◆Major 2nd Album『トワイライト』
2019年6月19日
初回限定盤 PCCA-04799 ¥3,200+税
通常盤 PCCA-04800 ¥2,600+税

<収録曲>
01.あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)
02.ずっとつづく
03.君がいるなら(映画『そらのレストラン』主題歌)
04.沈黙
05.遠い春(映画『高崎グラフィティ。』主題歌)
06.高田馬場で乗り換えて
07.ハローと言いたい
08.それぞれの悪路
09.花束にかえて(映画『そらのレストラン』挿入歌)
10.トワイライト
11.四月のばらの歌のこと

【アルバム歌詞一覧】