そういう時、言葉は、背景を必要とするんだと思う。

 2020年6月3日に“大比良瑞希”がニューアルバム『IN ANY WAY』をリリース。彼女は、tofubeats、LUCKY TAPES、Alfred Beach Sandal×STUTS、Awesome City Club等の作品やライブへの参加でも知られるように様々なアーティストから愛される次世代型シンガーソングライター。今作にはその個性的な歌声を堪能できる全12曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放つ“大比良瑞希”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾に続く、第2弾。綴っていただいたのは、歌詞を書くときにも欠かせない“言葉”についてのお話。言葉を助けてくれる“背景”とは、一体どんなものなのでしょうか…!

~歌詞エッセイ第2弾~

皆さまこんにちは、大比良瑞希です。

ぬるっと、緊急事態宣言、解除されましたね。5月末はどうなっているんだろう、6月3日のアルバム発売日に、渋谷の街は戻っているんだろうかと、心がざわついていましたが、この感じだと展開もできそうで、とりあえず、ホッです。みなさま、アルバム『IN ANY WAY』ぜひ、手にとってみてくださいね!

さて前回のコラムでは、毎分毎秒気づかないうちに最後の瞬間を過ごしている、という、人生は全てラストダンス話を書いてみましたが、まさに今も。緊急事態宣言の中にある日本は終わった。もう誰も外で遊ばない、静かで奇妙なGWは過ぎた。

でも宣言WEEKは終わったけれど、昨日と今日で何が違うのか、と言ってしまったら、昨日ウイルスがさようならしたわけではなくって。言葉は常に世界を作っているし、世界を区切っているし、世界を繋げている。言葉によって、動いている私たち。

ところで私には愛犬がいまして、巨大なフランスパンみたいな巨大なフレンチブルドッグ(20kg!)が、家族の一員です。彼と言葉を話せたら、どうなんだろうとたまに考える。よく、犬は喋らないから良いといったりするし、口は災いのもと、ということわざもあるくらいで、言葉は時として武器にもなってしまう。

つまり、言葉がなければ、争いは無くなるかもしれないってこと? 逆に、言葉をもっとたくさん知っていれば、悩みは減るかもしれない?

私たちの気持ちはいつだって複雑が普通で、言葉の連なりくらいではきっと喩えきれないんだよね。日本語は表現が多い言語とされているけど、それでも人と人とのコミュニケーションは、時に難しい。英語を勉強するどころか、まだ日本語でも気持ちを表現しきれなくて、ムズムズする時があるくらい私なんて。

そういう時、言葉は、背景を必要とするんだと思う。

それが、挿絵であったり、写真であったり、表情であったり、音楽であったり。音楽が言葉の背景に寄り添ってくると、「嫌い」という言葉も、「好き」という意味になって、ただの「好き」以上に気持ちが伝わってくる場合があるように。音楽が想像の助けになって、言葉だけでは削ぎ落とされてしまう、わずかな気持ちをすくい取ったり、曖昧な部分の存在を認めてくれたり、気持ちのグラデーションみたいなところを描いてくれる。

私は、シンガーソングライターの道を突き進めながらも、普段の気持ちを言葉にするのがすごく得意なわけではない。だからこそ、言葉だけでは伝えきれない気持ちを、音楽として形にすることの、虜になっているのかもしれない。

言葉にしきれないやわらかい部分を残したくて、まず音に想いを託すことでメロディや響きができて、その音が発している言葉をたぐりよせて、歌詞にしていく。言葉と向き合うために、一度言葉から離れる。

でもたまには、その逆で、その一行にどんな背景がくるのか、という言葉遊びをして見ても良いかもしれない。同じ一行に対して、いろんなBGMを鳴らしてみる、いろんな挿絵を並べてみる、そんな想像はちょっと楽しそうだし、相手の気持ちを察する上で日常においても必要な想像なのかもしれない、とも思ったり。

歌詞は、有限で無限な難しさと楽しさを秘めている、私にとって深海生物みたいな存在。

次回はそんな深海生物の謎に迫ります。笑

<大比良瑞希>

◆2ndアルバム『IN ANY WAY』
2020年6月3日発売
UXCL-241 ¥2,500(本体)+税

<収録曲>
01.Eternal My Room
02.甘い涙
03.無重力
04.SAIHATE
05.RESCUE
06.In a small lake
07.ムーンライトfeat.七尾旅人
08.いかれたBABY
09.ミントアイス
10.からまる feat. 大比良瑞希/KERENMI
11.Somewhere
12.Real Love -熊井吾郎Remix-