気持ちを伝えることが上手じゃないなと、実は常々思っている。

 2022年2月21日に“井上紗矢香”が、ニューアルバム『my tiny days』をリリースしました。2021年に「連続リリース企画」を実施し、合計10作品をリリースした彼女。今作にはその10曲を収録。さらに同日には、配信シングル「旗印」をリリース!フジテレビ系『めざまし8』の2022年2月度エンディングソングに決定しており、新学期・新生活に向けて、背中を押してくれる楽曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“井上紗矢香”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回が最終回です。日常生活のなかで、気持ちを伝えることが上手じゃない。SNSで不用意に言葉を発信することも苦手。だけど彼女が、歌詞なら書ける、歌詞なら伝えられる、その理由は…? 自身にとっての歌詞という大切な存在について明かしてくださいました。



私は歌詞を書き、メロディーをつけ、曲にして、日々歌っている。いるのだが、私は気持ちを伝えることが上手じゃないなと、実は常々思っている。
 
例えば何かをもらった時。すごく嬉しいと思っているのに、上手く全面に表すことが出来なくて、ぎこちなくなったり。ごめんねを言う時。申し訳なさすぎて、重たくなりすぎたり。あと、ちょっとした違和感に瞬間的に心がざわつく時。違和感の理由を自分の中で明確に言語化できるには少しタイムラグがあったりする。
 
SNS上でもそうだ。SNSは気軽に呟くツールだということは頭ではわかっているけれど、いざ対峙するとなんだか躊躇ってしまう。「考え込まずに、素をさらけ出せばいいんだよ」って言われても、どうしても抵抗を感じてしまう。
 
だって。胸の内側には色々なものがありすぎる。
 
例えば嬉しかったこと。それは私にとって、幼い頃、大切にとっておいた綺麗な色のリボンみたいに、自分だけにしかわからなくたって、宝箱に入れてしまっておきたくなるような存在で。痛みや悲しみは、擦りむいてしまった傷のように脆くて、ちょっとした刺激にも弱いから、丁寧に取り扱わなければいけない。なんか、そんな感じがするのだ。どちらにせよそれはとてもとても繊細だから、不用意にさらけ出すのは怖い。
 
「何気ないこととか、どうでもいいようなことでいいんだよ」と言われたりもするのだけれど、「何気ないこととは? どうでもいいこととは??」などと考え込んでしまう。
 
友達と話すとなると、「めちゃくちゃ話して楽しかったけど、何の話したかさっぱり覚えてないよねー」なんてことはざらにあるというのに。。。わざわざ粒立てて文章に書き起こすと、それを発信してしまうことに躊躇いが生まれるのだ。
 
わかってる。自分でも面倒なくらい不器用な性格を持ってしまったとは自覚している。しかもこの時代に。そんなんで歌詞なんて書けるのか?って声も聞こえてきそうだけど、、、(笑)。
 
それが、不思議なことに歌詞には書けるのだ。
 
むしろ、その時揺らいだ感情、景色も色も匂いさえも、ひとつも逃さずに閉じ込めたいとさえ思う。ものすごい変わりようだが、本当なのだ。なんだろう。例えると、「さぁ!今からあなたの意見を言いなさい!」と言われると上手く言葉が出てこないけど、日記になら書ける。という感じと近いかもしれない。そう改めて書くと、とんでもない人見知りを宣言してるみたいだけれど(笑)。事実そうなのである。
 
まぁとにかく、私にとって(私が歌うための)歌詞ってのはそういうものなのだ。だけどそれは、うたにはすべてが詰まっている、ということに他ならないのではないかと思う。普段の私に近い私。いや、普段は見せない私までもが、そこにはある気がしている。
 
だから。口下手な私だけれど、SNSに日常をなかなか呟かない私だけれど。だからこそうたを。どうか聴いてくれたら嬉しいなと、心から思う。あとSNSも頑張ってみる。たぶん(笑)。

<井上紗矢香>



◆紹介曲「旗印
作詞:井上紗矢香
作曲:かわいえいじ

◆配信SG「旗印」
2021年2月21日  Digital Releas

◆配信アルバム 「my tiny days」
2021年2月21日  Digital Releas