「どうすべき?」よりも「どうしたい?」って問い直す。

 2022年2月21日に“井上紗矢香”が、ニューアルバム『my tiny days』をリリースしました。2021年に「連続リリース企画」を実施し、合計10作品をリリースした彼女。今作にはその10曲を収録。さらに同日には、配信シングル「旗印」をリリース!フジテレビ系『めざまし8』の2022年2月度エンディングソングに決定しており、新学期・新生活に向けて、背中を押してくれる楽曲となっております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“井上紗矢香”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾。綴っていただいたのは、新曲「旗印」についてのお話です。「音楽の道に進みたい」という思いが生まれたときのこと。今へ繋がる道を歩む選択をした理由。そしてこれからに向けての意志…。是非、歌詞と併せてこのエッセイを受け取ってください。



“旗印”とは。
1.(はっきりと掲げた)行動の目標。
2.旗に書いて目印にする紋所。
 
検索してみると、そんなふうに表されている。戦国時代の合戦の時にバッ!と掲げる感じが想像できる。いかにも迷いのない、意志の強そうな感じだ。
 
ただ、そんなタイトルの曲を作りはしたのだが、当の私は悩みやすいし、くよくよ後悔するタイプである。特に幼い頃はそんなこんなで泣くことも多かった。お小遣いを使い過ぎてしまったと言っては泣き、プールの端から端まで泳ぎきったところを母に見せられなかったと言ってはめそめそした。
 
自分で振り返ってもとても面倒な子だったと思うけれど、幸い母がサバサバした明るい人だったので、その度励まされ少しずつ強くなりながら生きてきた。
 
はずだった。けれど中学生の頃、「音楽の道に進みたい」という思いが生まれてしまった時はとても悩んだことを、今でもその思考回路すら鮮明に覚えている。だって、たぶんこれはこれからの人生の方向性を決めることなんだろうと思ったし。将来の夢なんて今までコロコロ変わるタイプだったのに、音楽に対する思いは消えそうにないってことも直感的にわかったから。
 
どうしたものか。毎晩必死に考えた(何をもってして、というところはあるが)。どう考えても成功する人は一握りだし、そもそも私が向いているものなのかどうかもわからない。それなのにそこに今後の全てをベットするのは、もしかしなくてもとんでもないことなんじゃないか。考えれば考えるほどにそう思えた。
 
そのあたりまで考えたところで一旦、音楽の道を選ばなかった場合の人生を想像してみることにした。そこには進学して就職して、それなりに幸せな未来が見えた。でも同時に、その心の中には「あの時、音楽の道に進んでいたらどうなっていただろう?」といつまでもくよくよ思い続ける私がいるだろう、ということも嫌になるほどありありと想像できた。
 
険しいであろう道を生きていくこと。後悔を抱えて生きてくこと。そのどちらを選ぶことがすっきりするのかを天秤に掛けた結果、私は今へ繋がる道を歩み始めることにしたのだった。
 
<欲望の旗を掲げよ>
そんな言葉から始まるこの曲は、自分の胸の真ん中を見失わずにいたいと思って作った曲だ。
 
今だって悩んでしまうことはたくさんある。状況もルールも日々移り変わり、その先にある結果だって誰にも読めない不確かな中で、絶対失敗しない正解を選ぶことは難しい。でも、どんな行動を取ったとしても、矢面に立つのは私だから。喜びも悲しみも痛みも全部私が感じて生きてゆくのだから。「どうすべき?」よりも「どうしたい?」って問い直す。それを旗印と掲げて進めたなら、どんなことがあっても大丈夫な気がするから。
 
中学生の頃に書き記した旗印を掲げて今日まで生きてきて。きっとこれからもたくさん悩んで、めそめそ泣くことだってあるだろうけど。その度に胸の真ん中を掴まえられたら──
 
なんて、そういう生き方が必ずしも正しいとは全然思わないけれど、これはくよくよしがちな私が生きてゆく中で、少しだけ息をしやすくする為のちょっとしたコツなのかもしれない。

井上紗矢香>



◆配信SG「旗印」
2021年2月21日  Digital Releas

◆配信アルバム 「my tiny days」
2021年2月21日  Digital Releas