ある日、私の左肩に赤い小鬼ちゃんがちょこんと座わっていた。

 2021年1月6日に“Anly”がニューシングル「星瞬~Star Wink~」をリリースしました。タイトル曲「星瞬 ~Star Wink~」は、1月16日から限定上映される『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』主題歌。彼女が長年温めていた曲であり、持ち味である類い稀な歌声にスポットがあたるミディアムナンバーです。アニメ“夏目友人帳”の世界観を増幅させること間違いなし!

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Anly”による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は【前編】です。綴っていただいたのは、彼女の記憶の中に住む『小鬼ちゃん』のお話。交わらないはずの人と妖(あやかし)、両者の素朴で繊細な心を描いている人気作『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』の主題歌にも、きっとどこか通じているはず。みなさんにも自分には見えていた“何か”の存在ってありませんか…?

~歌詞エッセイ【前編】~

肌寒い帰り道。

冬の空に1つだけ光っている星を見上げた時。
突然、私は思い出した。

『小鬼ちゃんは何処に行ったんだろう…』

家にもう着くという直前で足を止め、記憶を辿った。

小学校低学年の頃の景色が
頭の中でセピア色に再生された。

ひとりっ子の私は、登下校中に
友達が兄弟と並んで歩いている後ろ姿を
いつも羨ましく見ていた。
私も毎日誰かとあんな風に歩けたら…と思いながら
道に生えてるお気に入りの雑草を引っこ抜いて
クルクル回しながら歩いていた。

そんなある日、私の左肩に
赤い小鬼ちゃんがちょこんと座わっていた。

小鬼ちゃんの出現は、朝学校へ向かう
いつもの道を歩いているときだった。
小鬼ちゃんはツノが一つ生えていて、目は一つ。
体は赤くて、虎柄の黄色いパンツを履いてた。

『おい、今日は、体育があるぜ、
あと算数もあるなー、お前苦手だよな』

とケタケタと笑い出した。
私は小鬼ちゃんの出現にはツッこむことはなく、
その発言に怒った記憶がある。

『うるさい!苦手じゃないもん』

と左肩を見ると小鬼ちゃんはまたケタケタ笑った。

『俺がいるから、もう寂しくないだろ?』

と言った。
なんか図星だったので
前を向いて学校に続く道を歩いた。

左肩の小鬼ちゃんは授業中も、話しかけてくる。

『なんだよー、今日は算数が2回もあるじゃねーか。
こんなのやっても無駄だ』

小鬼ちゃんは結構口が悪いので、何度か注意した。
もちろん突然喋り出したら
周りのクラスメートが驚くので心の中で会話をしてた。

『もう!そういう言葉遣いはダメ!やめなさい!』

と叱ると
小鬼ちゃんは生意気に『へいへい』と返事をする。

でも小鬼ちゃんが優しく接してくれる瞬間があった。
それは教室の向かいの部屋に置かれていた
ピアノを弾いたときだった。

『お前、ピアノ上手だな』
『んー、でもいつも同じところで間違う』
『練習すりゃ、もっと上手くなるさ』
『そっか、ありがとう』

出現したときから憎まれ口しか叩かない小鬼ちゃんが
褒めてくれたので、なんだか嬉しかった。
体育のときも『おー、がんばれがんばれ』
ニヤニヤしながらも
一応応援してくれてたので、結構好きだった。

私の記憶はここまで。

家の前で立ち止まって走馬灯のように蘇る
小鬼ちゃんとの思い出に心暖かくなった。

小鬼ちゃんが
私の寂しい心が生み出した妖怪だとしても
たしかに存在していた。

私の心は大人になって、
小鬼ちゃんのような不思議な存在を見たり、
感じたりすることが出来なくなったことに
気づけたことが、なんだか切なくも嬉しくもあった。

私が本来どんな人間だったかを
思い出させてくれた小鬼ちゃんに
今更だけどありがとうと伝えたい。

<Anly>

◆紹介曲「星瞬 ~Star Wink~
作詞:Anly
作曲:Anly

◆ニューシングル「星瞬~Star Wink~」
2021年1月6日発売
初回生産限定盤 SRCL-11614~5 ¥1,600(税込)
通常盤 SRCL-11616 ¥1,200(税込)
期間生産限定盤 SRCL-11617~8 ¥1,600(税込)

<収録曲>
1. 星瞬~Star Wink~
2.Free Bird
3.Rainbow
4. この闇を照らす光のむこうに -Orchestra Version-
5. 星瞬~Star Wink~Instrumental