赤星と青星、違う星に生まれた二人が出会う、10の「恋人」の物語…。

 2021年3月17日に“吉澤嘉代子”が5th Album『赤星青星』をリリースしました。今作では「恋人」をテーマに、違う星に生まれた二人が出会う10の物語が描かれております。かねてより吉澤嘉代子が大ファンだと公言している歌人・穂村弘との共作詞曲「ルシファー」を始め、シングル曲「サービスエリア」、ドラマ『おじさまと猫』オープニングテーマ「刺繍」を含む全10曲が収録。曲作りではとくに主人公の生かし方と歌詞の表記にこだわる彼女。コロナ禍で考えたことから曲に込めた想いまで、お伺いしました。是非、歌詞と併せてその想いを受け取ってください。

(取材・文 / 井出美緒)
刺繍作詞・作曲:吉澤嘉代子青めいた雪の糸が街を隠して 曇硝子の向こうに帰ってきてる気がしたやわらかいと微笑んで 頬にふれるあの人の手のひらグッドナイト ねえ おやすみの声を聞かせてよ
もう私には貴方しかいないの 運命の人よ
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ラスボスみたいな存在と対峙する1年でした。

―― 以前「残ってる」の取材をさせていただいた際には、夢の話をたくさんお伺いできたことが印象的でした。ちなみにその後、夢の住人の方々はお元気ですか?

はい。最近も夢日記をつけたりしているんですけど、悪夢が多いもので…。そういえば、あのインタビューをしていただいたあと、夢の研究をされている先生とお話させていただくことがあったんです。夢は記憶の再処理だそうで、本当は夢を覚えていないことが、精神の健康にも良いみたいです。だけど私はものづくりをする仕事なので、夢をみることが制作に繋がることもあり、どちらが良いとは言えないみたいで。おもしろい対談でした。

―― 嘉代子さんは「ステージに立つと、自分にスイッチを入れてその主人公になりきるって感覚と、逆にいつも自分をがんじがらめにしているものを、その瞬間だけは解放できるという感覚の両方がある」とおっしゃっていましたが、だからこそライブをするのが難しいという現状はつらいですね。

おっしゃるとおり、自分の歌を聴いてくれるひとと会えなくなったことで「自分の仕事ってなんだったっけ?」と思ってきて。作ったものはすごく好きなんですけど、自分そのものをどう抱きしめて生きていったらいいかわからないのが日頃の悩みだったので、ますます自分にできることがよくわからなくなりましたね。だけど、向き合う時間が多かったからこそ、子どもの頃から解消できなかった悩みとか、こう…ラスボスみたいな存在と対峙する1年でした。それはそれで大切な時間だったんじゃないかなと思います。

―― ラスボス。

photo_01です。

そうです。対峙できたからといって、すべてが解決するわけではないんですけど。でもとくにライブって、個人的なことで感情が振り回されているとやりづらいというか。主人公のなかに没頭していきたいと思うので、多分なるべくそのこと以外を考えないようにフィルターをかけてきたんですね。だからライブがなくなったことで、自分のなかに降りていく時間になった気がします。

―― そのラスボスの正体は、どんなものなのでしょうか。

そうだなぁ…。子どもの頃に背負ったものだったりとか、体験したトラウマだったりとか。多分みなさんにもあるのかなって思うんですけど、そういうものが私にもあって。それに蓋をして、一生閉じ込めていくという方法もあるけれど、曲を書く者としてはわざわざ開けて、自分の糧にしていきたいという欲望もあるんです。そんな存在のものですね。

―― 年齢を重ねるにつれ、歌詞に書きたいことや表現したいこと、価値観で変わってきた部分はありますか?

いっぱいあります。年齢につれてというより、最初は曲を書く初期衝動を鮮度の良いうちにアルバムにしたいと思っていたんですね。曲には主人公がいて物語があるんですけど、どこか自分のなかに「この寂しかった気持ちや報われなかった気持ちを私が忘れたら、少女の頃の自分がかわいそうだ」という気持ちもあって。絶対に忘れたくないって。でもリリースするたびに、忘れちゃうというか、忘れていいと思えるというか。曲にすると、自分が忘れても、形に残って今度は誰かが覚えていてくれたりするじゃないですか。だからそういう安心があって、どんどん消化されていくというか。消滅するというか…。なんていうのかな…。

―― 誰かの手に渡ったことで、自分のなかの気持ちが成仏する感覚ですかね。

そう、成仏です。成仏していくと、もうそういう気持ちを自分からは書かなくなっていくんです。オーダーされたらいつでも作りますよ、という感じになっていく。そうなるとまた新しいものが書きたくなってくるので、新作はとても脂の乗ったいい状態です(笑)。

―― また、嘉代子さんが初めて書いた曲についてお話されている記事も拝見しまして。16歳の時、恋人たちの目線が男女交互に交わっていく物語で「木綿のハンカチーフ」みたいな感じだったと。歌詞の一部とか覚えていますか?

はい、恥ずかしいですけど(笑)。えっと…<あなたの笑顔を映したお月様の下で 振り返る過ごした日々をいま 泣き出す前に>…みたいな。その頃から物語として登場人物を出すという作り方をしていましたね。その世界を切り取りたい気持ちはずっと変わらない気がします。

―― いちばん最初に作った曲で描かれているのが「恋人」で、今回のアルバムのテーマも「恋人」ということで、どこか通じているようにも感じました。

あー。最初の頃のアルバムは「少女時代」とか、自分の内省的なものをテーマにしていたんですけど、一方でそういう「恋人」を描いたものとか、テーマにはハマらない曲も作っていて。いつかピッタリなテーマが来たら入れようって思って、温めている曲がたくさんあるんです。これからのためにとってある曲もまだまだありますね。

―― 「残ってる」の取材では「次のアルバムでは自分のなかのR18を解禁したい」とおっしゃっていて、その後まさに“解禁”されたアルバム『女優姉妹』をリリースされましたが、その時点で今回の「恋人」というテーマはもう見えていたのでしょうか。

そんなこと言っていたんですね!でも、確かに見えていました。何ならその先とその先も。なので今回のアルバムに収録されているシングル曲の「サービスエリア」も「刺繍」も『赤星青星』のテーマに沿って出したものですね。

―― 「サービスエリア」は冒頭に<赤と青に光る幾千もの雨粒が窓をなぞってゆく>というフレーズがありますが、これはアルバムタイトル『赤星青星』を意識されていましたか?

いえ、「サービスエリア」はこの1行目から作ったんですけど、これはずっと前からあったフレーズで。『赤星青星』に通じているのはたまたまですね。あと9曲目の「リボン」にも<赤いリボン>と<青いリボン>というフレーズが出てくるんですけど、これも20歳ぐらいのときに書いた曲で、また偶然にもアルバムタイトルに通じていて。今回は入れなかった曲にも「赤」と「青」というワードが結構入っていたりするんです。

―― 「ルシファー」にも<その青いくちびるにくち紅をひいて>というフレーズがありますね。

そうなんです。だから多分ずっと、自分にとっての対極なものの象徴として、なんとなく「赤」と「青」があるんだと思いますね。

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