逃げ出したって自分の想いが死ななければ負けない。

 2019年12月4日、北海道発の3人組バンド“The Floor”がニューアルバム『nest』をリリース!タイトルに【巣】という意味を持つ今作。ここを原点に、三人で新しいものを産み落とし、さらに飛び立っていこうという意志と、聴いたひとにとってこのアルバムが居心地のいい場所になるようにという願いが込められております。

 さて、今日のうたコラムではそんな彼らのスペシャル歌詞エッセイを3週に渡りお届け!ササキハヤト(V0.)、ミヤシタヨウジ(Ba.)、コウタロウ(Dr.)が各週で執筆を担当。第1弾は、今作に収録されている4曲の作詞を手掛けた“ササキハヤト”による歌詞エッセイです。それぞれの歌のなかの物語と想いを、じっくりとご堪能ください。

~ニューアルバム『nest』歌詞エッセイ第1弾~

 The Floorのボーカル、ササキハヤトです。こんちは。今作『nest』ではCandy雨夜の月ナイトフォールTo Be Continuedの4曲の歌詞を描きました。そんな曲たちのお話をしましょうかね。

 人と付き合うとかどうとか曖昧な口約束の関係はキャンディみたいに甘いけれど、大事に味わっていてもいつかは溶けてしまう。人を好きでいるのって楽しいですよね。色んなものを見たり聴いたり共有したり。夢のような日々だ!って喜んでみれば、夢であればいいのになんて落ち込んだり。忙しない。

 恋の形は様々で、一途なものもあればあっちこっちフラフラするものもある。「ずっと一緒にいようね」って言っていても離れてしまったり、離れてしまえばまた新しい道を行ったり。恋というものに中毒状態になりながらも夢を見るのをやめられない。
 
 愛し合って喧嘩して、Candyではそんな恋に振り回されて楽しく甘い時間を過ごしていたいよねって気持ちを歌っています。どうせいつかは溶けてしまうのにね。

次の話、

 雨夜の月って言葉はその言葉の通り「雨の夜の月」を意味してます。でも雨の夜って月なんて見えないじゃないですか。曇ってるし。要するに「あり得ないもの」って意味なんです。そんな見えない月みたいなあの娘に恋をしたお話(青い薔薇っていうのも同じ意味で、候補としてあったんですけど最近は品種改良されて出来ちゃったらしいですね。青い薔薇…)。

 その人は優しく笑う人だった。話が合う、というより合わせてくれる。そんな人だった。なんの約束もしていないけれど、勝手に一緒にいられると思っていた。だらだらと流れる日々が心地よかった。こんな生活が続けばいいと願っていた。ある雨の降る夜のこと。最後にしようって君が言った。ずっと他に好きな人がいたって。ごめんねって。知ってたよ。それでも一緒にいたかったんだ。自分ばかり本気になって辛かったけれど。いつかちゃんとこっちを向いて欲しかったんだよ。無理だとわかっていても離れられなかったんだ。小さなカバンに収まるほどの荷物をまとめてその人は出て行った。さよならの言葉もちゃんと言えないまま。月はたしかに見える位置に居たのにずっと曇り模様の空だったね。もしも少しでも晴れていたら、君を連れ去ってしまいたかったよ。

 って話と、キャバクラのお気にの嬢とどうしても付き合いたくて通いまくってるんだけど全然振り向いてもらえない!こんなに好きなのに!………え?あの娘が店を辞めた…?もう会えないって?そんなあ~~~~!!!!っていう話とどっちが好きですか?

次の話、

 夕焼け空、夜の落ちる頃、「また明日ね」って別れ際の挨拶をできる相手があなたにはいますか? 僕にはいました。けれどその大事さを僕は知りませんでした。

 他愛のない言葉だと思います。「また明日」。けれど大人になるとそんな約束を、一日の別れを、できる相手って実はそうたくさんいるものじゃないんだなって、そいつを失くしてから初めて気づきました。

 そいつと居たから日々が楽しかったこと、自分の色んなことを許してくれていたこと、その優しさに甘えていたこと。もっと君に寄り添って生きていればなんて思う。今ならこんな自分でも君に優しくできる気がするんだ。でも遅すぎたね。僕にはもう君を忘れないことしかできないみたいだ。

 ナイトフォールはそんな想いを歌っています。夕焼け空の下、手を振っているあなたの大事な人を思い浮かべて聴いてください。

次の話、

 To Be Continuedはガチ応援歌です。逃げたって構わない、そこから始めよう。俺たちの戦いはまだまだこれからだ!的な。

 僕は『ジョジョの奇妙な冒険』が好きで、第5部のスピンオフ作品として『恥知らずのパープルヘイズ』という作品がありまして、その作品のテーマが“一歩を踏み出すことができない者たちの物語”というものなんです。

 もともと5部の主人公たちの仲間だったけれど途中で逃げ出してしまったというか、仲間たちと離れてしまった1人のキャラクターに焦点を当てた後日談となっていまして、そいつがまた仲間として加わるための戦いの物語なんです(本当はもっとちゃんと話したいけど長くなるので割愛。無念)。それを題材ってほど中身に触れてるわけではないのですが着想を得て描いてみました。
 
 僕は「逃げたら負けだろ」って心無い言葉を言ってしまったことがあります。でもそれは間違っていたなって思って。別にその場に居られなくなったとしても道は続いていて、諦めずに踏み出す限り自分に終わりは来ないんだって。自戒も込めながら、逃げ出したって自分の想いが死ななければ負けない。自分が主人公になれる物語は続いていくんだって。そんな想いをぶつけました。背中を押せますように。

 最後に、今作はこんな4曲について歌にしました。歌のどこかに自分を重ねながら聴いてくれたら嬉しいです。新体制になって初めての作品『nest』。自分たちでも超納得のいく作品になりました。届いてくれたら嬉しいす。

<ササキハヤト>

◆2nd album『nest』
2019月12月4日発売
生産限定盤 VIZL-1675 ¥3,500+税
通常盤 VICL-65278 ¥1,900+税

<収録曲>
1.Candy
2.雨夜の月
3.Shadow
4.砂の山
5.ナイトフォール
6.To Be Continued
7.群青について
8.I Don't Know