その“心”が少しでも自由になれるように…。全13曲入りニューアルバム!

 聴けば、きっと囚われる。旋律に愛された、大阪発4人組ピアノロックバンド“SHE'S”がニューアルバム『Tragicomedy』(トラジコメディー)をリリースしました。アルバムタイトルは『悲喜劇』を意味する言葉で、“心”をテーマに制作された全13曲が収録されております。初めて、自分ではない“ただひとりの相手”のために作り始め、完成させたという今作。なぜ『悲喜劇』なのか、テーマを通じて何を伝えたかったのか、ボーカルの井上竜馬さんがじっくり語ってくださいました。今、心が壊れそうになっているあなたにも、彼の言葉が届きますように…!

(取材・文 / 井出美緒)
Letter作詞・作曲:井上竜馬大人になっていくことが
僕を狂わせてるんじゃないかって 思ったりもしたけど
僕らは大切な人から順番に 傷つけてしまっては 後悔を重ねていく
それでも愛したり 愛されたいと願っている
あなたを守れるほどの 優しさを探している
もっと歌詞を見る
今作はいちばん歌詞が変わったタイミングかもしれない。

―― 竜馬さんがいちばん最初に音楽に感動したときの記憶って覚えていますか?

もっとも大きいのは、中学1年生のときに“ELLEGARDEN”を知ったことかな。うちの母がわりと邦ROCK大好きで、ラジオから流れてきた曲で好きなものがあったら、すぐ僕にも教えてくれていたんですよ。だから車ではいつもJUDY AND MARYとか東京事変とかBUMP OF CHICKENとかを聴いていたんですけど、とくに「何これ!」って衝撃を受けて、自発的にCDを買ったのはELLEGARDENが初めてでした。そこからバンドをやりたいって気持ちも生まれてきましたね。

―― 小学1年生から中学3年生まではピアノも習っていたとのことですが、ピアニストになりたいと思ったりはしませんでしたか?

まったく思わなかったわけでもないなぁ…。中学の頃に『のだめカンタービレ』が流行って、漫画も全部読んで、一時期「俺は音大に行く!ピアニストになる!」とか思ったこともあったんですよ。でも結構、影響を受けやすいタイプなので、その時々で夢が変わっていて。いとこがピアノを弾いている姿を見て、ピアノを始めたし、漫画の『BECK』を読んで、ギターを始めたし。で、ELLEGARDENに出逢って「バンド最高やな!」ってなったわけです(笑)。

―― 大学時代、SHE'Sを組んだ当初はもうプロになろうと決めていたのでしょうか。

photo_01です。

いや、最初は趣味のバンドでした。僕は芸術大学の映像学科に行っていて、映像の編集に興味があって、映画の予告編とかを作りたいなと思っていたんですよ。他の3人も何かしらの会社に就職するつもりだったし。だけど2012年に10代限定の音楽の大会でファイナリストに残って、日比谷野外音楽堂でライブをしたことがきっかけになり、メンバーみんなのベクトルが揃ったんですよね。音楽で、バンドで、飯を食っていこうって。それが大きな転機でしたね。

―― ちなみに、メンバーのみなさんとはもう10年以上のお付き合いになるんですね。

そうそう。ギターの服部とベースの広瀬は中学の同級生だし、正直4人ともずっと友達感覚で、それをなくしたくないなとも思います。ビジネスとして、バンドとして、切り替えてやらなあかん部分もみんなちゃんと持っているけど、やっぱり友達として一緒にやって“楽しい”っていう感情が消えてほしくないですね。誰一人。それはSHE'Sにとってすごく大事な要素だなって改めて感じます。だから喧嘩とかもマジでないんです(笑)。

―― 普段、曲はどういったところから生まれることが多いのですか?

歌詞に関しては、もう9割はノンフィクションでして。基本的には、自分の生活のなかで起こったことを歌っているんですね。だから、ある出来事をもとに考えを巡らせたりとか、誰かや何かに対して感じたことをそのまま書いたりとかがほとんどです。タイアップの書き下ろし楽曲の場合でも、その作品の物語を自分の人生と重ね合わせて作ります。

―― そうなると、なかなか人に会えないこのステイホーム期間は、曲作りも難しかったのではないでしょうか。

ホンマにそうですね。ずっと家にいると、まったくイメージが湧かなくなっちゃって。もちろん、こういう情勢になって改めて考え直すことや生まれた気持ちもあるけど、それがすごく多いというわけでもないから。どうしよう…って。曲を作りたいという意欲も弱くなってしまったし。それでも、意識的にモチベーションを持続させるように、映画を観たり、小説を読んだり、そういうところでなんとかしようとしていましたね。

―― 家にいると、感情が動きにくくなってしまいますよね。

まさに“無”って感じの生活でした(笑)。気づいたら夜の10時から朝の7時までゲームしてたり…。で、その事実を受けて「俺、何してんやろ…」ってまた“無”になるという繰り返しで。自粛期間中にYouTubeで「SHE’S Room」という配信番組を計4回したんですけど、そのなかでリスナーのみなさんと曲を作るという企画を行いまして。みんなから歌詞のキーワードをもらって、それをもとに歌詞を作り上げて…という方法だったから、なんとか作り上げられたんですよ。でもそうじゃなかったらめちゃくちゃ難しかっただろうなって、いまだに思いますね。

―― 竜馬さんが人生で初めて曲を作ったのっていつ頃でしたか?

16歳のときでしたね。歌詞の内容は……あれ…覚えてないな…。ドラムの木村とやっていたバンドだったんですけど、お互い違う高校だったので、ライブハウスで演奏するために曲を作って…。当時、洋楽ばっかり聴いていたので、つたないながらに英語を入れていた気がするけど、タイトルすら覚えてない(笑)。ラブソングではない、結構ロックな曲だったと思います。まぁこんなに覚えてないってことは、当時はあんまり歌詞を大切にしてなかったんやないかなぁ。

―― そこから現在に至るまでで“歌詞面”は大きく変わりましたか?

はい、かなり大きく。まずSHE'Sを組んだときは、全英詞だったんですよ。海外のピアノロックアーティストに影響を受けていたので、そういう方向性で行こうと1年ぐらい活動をしていました。でも、転機となった10代限定の大会に出たとき応募した曲は、初めて日本語メインで書いた歌詞で。それが認められたっていうこともあり、そこから日本語の曲を書いていこうって。あとメジャーデビューのタイミングでも、それまでは自分のことを自分に対してしか歌ってなかったけれど、ちゃんと矛先は“外”に向けようと変わったフェーズでしたね。

それ以降でも、それこそ今作はいちばん歌詞が変わったタイミングかもしれない。今までは結局、自分の生活のなかで起こったこと、自分の変えたいところ、自分の理想、そういうものを中心に言葉を紡いできたんですね。だけど今作は、まず作ったきっかけが、自分の身近なひとが“心の病”になってしまったことなんです。初めて、誰かのために曲を書き始めて、初めて“ただひとりの相手”のために作り上げたアルバムだったんです。だからこそ、全体を通じて、今までとは全然違う言葉の注ぎ方になっているなぁって、客観的にも思いますね。

123次のページ