生活の上に成り立つのが恋愛で、恋愛に振り回されるのが生活だ。

 2021年12月29日に“reGretGirl”が1st EP『生活e.p.』をリリースしました。作詞・曲を手掛ける平部(Vo.)が得意とする「リアリティのある失恋ソング」を追求した全4曲を収録。楽曲世界の舞台は、アートワークでも写っている平部の地元、大阪・和泉府中です。この地で起こった“一つの恋の終わり”を追体験できるような内容となっております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“reGretGirl”の平部雅洋による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は【前編】です。綴っていただいたのは、1曲目「ロードイン」と2曲目「シャンプー」のお話。それぞれの歌の“生活”がより鮮やかにくっきりと見えてくる歌詞エッセイ。是非、歌詞と併せてお楽しみください。



―「生活e.p.」前編
 
はじめに、「生活e.p.」をリリースし、歌ネットでこの歌詞エッセイを二回に渡り掲載させていただける事に感謝を述べたいと思います。エッセイやセルフライナーノーツのように作品の解説を行なっている感じはないのですが、「生活e.p.」を聴くにあたり、作品をより良い方向に掘り下げられる文章になっているかと思います。
 
 
生活の上に成り立つのが恋愛で、恋愛に振り回されるのが生活だ。切っても切れない関係は、身がすくむ程心地よく、その尊さに怖気付いてしまいそうになるのだ。
 
~M.1「ロードイン」~
 
「―まもなく2番線に20時9分発、関空紀州路快速、関西空港、和歌山方面行きが8両で参ります。危ないですのでホーム黄色の線より内側にお下がりください。電車の到着が遅れました事を深くお詫び申し上げます―」
 
JR阪和線は数分遅延し、仕事帰りの君を乗せ2番ホームに到着した。改札の向こう側から僕を見つけ、パッと表情に華が咲く。小走りで駆け寄り、「今日はどうする!?どこ行く!?何食べる!?」と息をつく間も無く投げつけてくる言葉が、この瞬間をいかに待ち望んでいたかを思わせ頬が緩んだ。主人に飛びつく子犬の様なその姿を肴に一杯飲めてしまえそうで、これから深くなるであろう夜への期待は高まった。
 
「金曜の夜は最強」らしい。調子良く飲み進めるのに付いて行くのがやっとで、よく二軒目に利用する店に入る頃、僕はかなり酔っ払っていた。「ひとりで酔うと虚しくなるのに一緒に酔うと本当に楽しいよな」と毎回言ってしまう。「わかった、わかった」と軽くあしらいながらも、目尻が下がりニヤニヤしている顔を見ると、君も酔っているのだなと思えて嬉しかった。皿に溜まっていくピスタチオの殻は、帰る時間を知らせているようで「続きは家で飲むか」と席を立ち上がった。アーケードをフラフラ歩く僕らの手はしっかり繋がっていた。
 
 
~M.2「シャンプー」~
 
風呂上がり、君の髪を乾かす事が僕の一日で一番重要な仕事だった。
 
「あとでまた使うから」とコードを繋いだままのドライヤーは、会社のビンゴ大会で当てた高級なものだ。鏡の前の椅子に座らせ「お客さん今日はどんな感じでヤっちゃいます?ちょっと冒険しちゃう?」と鼻に付く話し方をするといつも笑ってくれた。
 
櫛を片手に丁寧に。ワンレンボブヘアーの毛先は内巻きに。ドライヤーの騒々しい風音の中、「なんて??」「なんも言ってないで!!」的なふたりしか笑えないお決まりのやりとり。コンタクトを外した目はどんどん眠たそうになっていく。永遠に続くかの様にゆっくり流れる夜の時間を贅沢に使い、髪が乾く頃には半分眠っていた。
 
“きっと明日も”がドライヤーの風と共に舞い上がる、ふたりは同じ髪の匂いがしていた。
 
<reGretGirl Vo./Gt 平部雅洋>



◆紹介曲
ロードイン
作詞:Masahiro Hirabe
作曲:Masahiro Hirabe

シャンプー
作詞:Masahiro Hirabe
作曲:Masahiro Hirabe

◆1st EP『生活e.p.』
2021年12月29日発売
完全限定生産盤 COCP-41654 ¥3,850(税込)

<収録曲>
1.ロードイン
2.シャンプー
3.LDK
4.オールディーズ