生きる意味がなければ生きる意味はないと思った。

 2022年3月2日に“ヒグチアイ”がニューアルバム『最悪最愛』をリリースしました。今作には『進撃の巨人』The Final Season 2のエンディングテーマ「悪魔の子」やドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』のエンディングテーマ「縁」、昨年配信された“配信3部作”の「悲しい歌がある理由」「距離」「やめるなら今」など全11曲が収録。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“ヒグチアイ”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、今作の収録曲「劇場」に通ずるお話です。この歌詞の<蛇を飲もうか>というワンフレーズが生まれるきっかけとなった、とあるステージ上の光景…。果たしてこれから自分は己の「劇場」でどう生きていくべきか、どう生きていきたいか。その想いを明かしてくださいました。



<蛇を飲もうか>という歌詞は、10年前にお世話になっていた事務所の人が連れて行ってくれた靖国神社の見世物小屋から来ている。その年齢なら見たことないでしょ? と言われ、興奮気味に見に行った。
 
入り口で700円を払うと、目の前の人の列に並ぶ。パンダを見る行列と同じだ。前が進めば少しずつ全貌が見えてくる。最初は、本当のパンツではないパンツ(なんだそれ)や作り物の巨乳を見せつけながら踊る人が出てきて、それよりも後ろでウッドベースを弾く人がかっこいいなあなんて思っていた。
 
最後に出てきたのが、蛇を食べる女だった。生きている蛇を舐めまわし、最終的には食いちぎるという、想像するだけで口の中がゾワゾワするような事が目の前で行われた。それが終わりの合図だというように、少しずつ進んでいた列は解けたように出口に向かっていった。興奮していた気持ちは一瞬で解けてしまった。ステージの上という意味では、わたしもその女性も同じだったからだ。
 
10年経った今でも、蛇を食べなきゃ、と思ったことはない。幸運にも。それでも、誰にもできない(少なくともできる人の話を聞いたことがない)ことをやっていたあの蛇を食べる女のことは忘れられなかった。
 
わたしはずっと、自分を切り売りしてきたと思う。歌詞は最たるものだし、今作ってる雑誌もそう、インタビューもそう。切り売りすることにあまり抵抗がない。だから、売れるものであればなんでも売ってしまう。それがこの世に唯一の物だとしても。
 
切ってきた身は年齢と共に治りが遅くなって、元通りにならなくなってしまった。これ以上、切ってしまうとわたしはわたしに戻れなくなってしまう。それでも、命が短くなっても、歌を歌いたいのか、と常に自問自答する日々だった。
 
人生は一度きりだ。大切な人たちがいる。音楽より大切なものがある。だから、長く生きるために、わたしを切り売りすることはやめる。全部やめるのはきっと性に合わないから、少しだけにする。
 
蛇は食べれない、裸は見せれない、血は流せない。そんなわたしが見せられるものを、この劇場で探し続けていく。必死に。人生をかけて。

<ヒグチアイ>



◆ニューアルバム『最悪最愛』
初回限定盤 [CD+DVD] PCCA-06116 ¥4,950 (税込)
通常盤 [CD Only] PCCA-06117 ¥3,300 (税込)

<収録曲>
1. やめるなら今
2. 悪魔の⼦
3. 劇場
4. 縁
5. ハッピーバースデー
6. 距離
7. 悪い⼥
8. まっさらな⼤地
9. サボテン
10. ⽕々
11. 悲しい歌がある理由