わたしの「好き」が君の「好き」を超えてしまわないように。

 2022年3月2日に“杏沙子”が、mini Album『LIFE SHOES』をリリースしました。長所と短所、裏と表、理想と現実、生きていくうえで誰しもが抱えている矛盾を左足と右足に例えた今作。時に立ち止まり考えながらも、前に進み続ける全ての人に、毎日の一歩を助けてくれるお気に入りのシューズになるような作品でありたいという想いが込められております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“杏沙子”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「ともだちに戻るよ」のお話。本当は別れたくない。それでも、ともだちに戻る、その理由は…。歌のなかの<わたし>の感情がよりリアルに見えてくるエッセイ。是非、歌詞と併せてお楽しみください。



「別れたくない」
そう言ったら終わりだと思った。
 
「やっぱりさ、前みたいに、ともだちに戻りたい」
不安げな顔でこちらを伺うように言った君に
「そうだね、戻ろっか」
と返すと、君はほっとしたように笑った。
 
ずっとわかってた。
君の気持ちが、わたしとおんなじだけないことは。
 
電話しようって約束した夜、
約束を忘れて連絡もなく、
翌朝、忘れたことにも気付かず普通に連絡して来るとか。
 
LINEで次会う日を決めるとき、
なかなか日程を出してくれないとか。
 
前に話したことを覚えてないとか。
 
その度に君は、もういいよって笑っちゃうくらい何度も謝ってくれたけれど、別にわたしは怒ってなんかいなかった。
むしろ、悪気がないことが辛かった。
謝られれば謝られるほど、君を遠く感じた。
 
わたしは電話しようって約束したその夜を楽しみにその日1日をがんばれたし、
予定なんか合わせずに会えるなら毎日でも会いたいし、
君が話してくれたことはたぶん、
話した君自身より覚えてる。
 
ごめんって謝る君に、
笑顔で大丈夫って嘘をつき続けた。
全然気にしてないフリをし続けた。
わたしの「好き」が君の「好き」を超えてしまわないように。
 
きっとわたしの「好き」が自分のそれより大きいことを感じたら、 
優しい君はまたごめんって謝って、
もっと遠くへ行ってしまうだろうから。
 
でも、とうとうその日が来てしまったみたいだ。
いつもは恥ずかしくなるくらい
わたしの目を見て話す君が
大きな口を開けて豪快に笑う君が
今日は申し訳なさそうに目線を落として、
愛想笑いをしてた。
やっぱり君はわかりやすいね。
 
「そうだね、戻ろっか」
不安げな顔でこちらを伺う君の顔を見て
咄嗟に口から出た嘘に、
君への気持ちを思い知らされた。
 
今ここで「別れたくない」って言うことは
わたしの「好き」を押し付けることになる。
君にとっては大きすぎるそれを。
そうすれば、やっぱり君は離れていくだろう。
ともだちよりも、誰よりも、遠いところへ。
優しい君から距離を置かれる
未練のある「元カノ」にだけはなりたくなかった。
だからやっぱり、笑顔で嘘をついた。
全然気にしてないフリをした。
そこまでしても君から離れたくない自分が
どうしようもなく情けなかった。
 
帰り道、雨が降っていた。
それぞれの傘を開いて歩いた。
ちょっとすっきりした顔で君は笑った。
わたしもともだちのフリをして笑った。

<杏沙子>



◆紹介曲「ともだちに戻るよ
作詞:杏沙子・石崎光
作曲:杏沙子・石崎光

◆mini Album『LIFE SHOES』
2022年3月2日発売
【初回限定盤】CD+DVD VIZL-2013 ¥4,180
【通常盤】CD VICL-65664 ¥2,750
 
<収録曲>
01.元カノ宣言
02.ピスタチオ
03.Mirror
04.ともだちに戻るよ
05.負けたんだ
06.好きって
07.眩しい
08.女の子にしてよ