映画『どうにかなる日々』主題歌!“モノマネ”をテーマに描いたロックナンバー!

 “クリープハイプ”が主題歌と初の劇伴音楽を担当した、10月23日(金)公開の劇場アニメ『どうにかなる日々』のオリジナルサウンドトラックを、2020年10月21日にリリース。さらに、主題歌の新曲「モノマネ」が10月9日から先行配信スタート!同曲は彼らの人気曲「ボーイズENDガールズ」の続編を描いたロックナンバーとなっております。インタビューでは尾崎世界観にその新曲についてじっくり語っていただきました。また、最近よく「歌詞が明るくなった」と言われるという彼。果たしてその真相は…? さらに、作詞の際のマイルールから、歌詞に対する想いまで、お楽しみください…!

(取材・文 / 井出美緒)
モノマネ作詞・作曲:尾崎世界観おんなじ家に帰る幸せ おんなじテレビで笑う幸せ
このモノマネ全然似てないね 下手だって馬鹿にしてたけど
似てないのはもしかしたら ひょっとしたらひょっとした
あの時あなたは泣いてたのに 何も知らないあたしはただ笑ってた
全然似てない 今更泣いても酷いモノマネだな
やっぱり似てない 今更泣いても酷いモノマネだな
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僕は満たされてないです!

―― 今年7月から尾崎さんがスタジオキャストとして出演されている『セブンルール』毎週楽しみに観ております。曲作りに通ずるお話をされることもあり、先日は尾崎さんの「誰かがやりのこしたものを拾うのは僕も同じ」という発言が印象的でした。

普段、歌を聴いていて「ここが歌われてないな」と思うことが結構あって。それは別に歌わなくても良いところなんですけど、自分が聴き手として「歌われてない」と思ったところを、書き手になったときあえて拾って書いてみたくなるんです。そうすると逆にみんなが書いていることは書かなくて済んだりもするので。僕は他のひとと同じことはしたくないという気持ちが強いから、必然的に被らなくなるという点でも良いんですよね。

―― たとえば、9月に配信された新曲「幽霊失格」のテーマはどのように見つけたのでしょう。

もともとバンド自体に、ああいうファンタジー要素のある歌詞の曲がなかったんですよ。それで、あえて「幽霊」というテーマを用意しました。そこからクリープハイプの曲として成立させるためにはどうしようかと考えていくのがおもしろかったですね。より生活感を出した方が良いかな、とか。そうやってひとつ足枷を設けると、実際に成立したときに達成感があります。

―― その「他のひとと同じことはしない」ということの他にも、歌詞を書くときのマイルールってありますか?

photo_01です。

いまだにずっとiPhoneのメモで歌詞を書いているので、ひとマス空けたり、改行したりという感覚が大切なんです。でも最近iPhoneをアップデートしたら、半角スペースが全角スペース空く仕様になってしまって、それがすごく不満だったんです。自分のなかでかなりズレが出てしまって。余計なことをしないでほしいと思いました(笑)。今はもう設定を変えられて半角スペースに戻せたんですけど、直るまではだいぶストレスがありましたね。それぐらい機械的に、感情を入れ過ぎず歌詞を書くことがルールになっていると思います。

―― おもしろいルールですね。スペースすらも歌詞の一部というか。

そう、空白は大事なんです。視覚でiPhoneの文字の見た目と動かし方を捉えて、パズルみたいに作っていくイメージですね。だから僕は絶対に歌詞を手書きで書かないんですよ。言葉に自分の歪みを入れたくないというか。一度、機械的な文字にすることで言葉の熱を冷まして、冷えた言葉を使うことで本当に良いものがでてくると思っていて。手書きで書いちゃうと、自分の字だから言葉に意味が出過ぎちゃう気がするんです。それによって大した言葉じゃないのに良く見えたり、良い言葉なのに歪んで見えたり。ノートに書いている人が羨ましくなる事もありますね。自分には創作ノートがないから。なるべくiPhoneのメモも残すようにはしているんですけど、やっぱり未完成な歌詞は恥ずかしくて消しちゃうことが多いですね。自分が死んだときには、絶対に資料として残らないで欲しい(笑)。

―― 尾崎さんは以前インタビューで、女性目線の歌詞について「女性の心がまったくかわらないから、好き勝手になんでも書ける」とおっしゃっていましたが、『セブンルール』で、様々な職種の女性の生き方や思想を知ることによって変わってきた感覚もあるのでしょうか。

まず今は、5年前にそのインタビューに答えたときよりも、性別に関して発言するのが難しいと思うところがありますね。当時は成立していたけれど、今、同じ言葉を載せたら揉めるかもしれない。そこに関しては、不自由だな、喋りづらいなと感じる場面が増えてきました。でも、だからこそ『セブンルール』で活躍している女性を観て、もっと勉強できたらと思っています。

―― 価値観って5年の間でも大きく変わったりしますよね。

はい。昔の歌詞に対して「差別的だ」とあげつらわれたりもしますね。曲ってずっと残る良さがあると思っていたけれど、残る怖さもあるんだと知りました。そして、これからどんどんその怖さは増していくと思います。だから「女性の気持ちをあまり気にせず、自由に書いてます」とも言いづらいし、女性目線で書くときにはかなり気を遣っています。

―― 新曲の「モノマネ」は一人称が<あたし>ですが、それが女性とは限らないと考えると、必ずしも“女性目線の歌詞”とも言えなくなってきたり…。

そうなってくるんですよね。しかも、音楽を好きなひとに言われるぶんにはまだ良いんですけど、まったく音楽を聴いてない、そういう問題に関心があるひとが歌詞の一部分だけを切り取ったりする。実際に差別的な曲も存在するのかもしれないけど、自分は違うので。ミュージシャンにとっても、ファンにとっても、大きな問題だと思います。

―― 尾崎さんは、年齢を重ねるにつれ書きたいものって変わってきましたか? 個人的には以前より、歌詞の明るさが増したようにも感じるのですが。

それすごく言われるんですよ!前作のアルバムぐらいから、歌詞が明るくなったって。なんでなんだろう。なかには「尾崎さんは今、幸せなんじゃないか」と書いているひともいて…。いつもどんなに悔しい思いをして、人に対する妬みを持っているか見せてあげたいです (笑)。

―― (笑)。少しずつ生きやすくなってきたのかと…。

まったく生きやすくなってないです。「今の尾崎さんは満たされている」と言われるとすごく落ちこみますね。満たされてないから(笑)。でも…たしかに負の感情の出し方は変わったのかなと思います。そんなことを言葉にしても仕方ないなという諦めが増えたのかもしれないです。

それに、ずっとインディーズの頃のような尖った曲を作り続けるのも、嘘になると思うんです。生活もできるようになったし、お客さんもいてくれるし。それで初期みたいな曲を作るほうが無理がある。リアリティーがない。だから、そういう意味では、表現者として無理のない曲を作れているんでしょうね。怒りとか恥ずかしさとか悔しさとか、昔より今の方がずっと強いけれど、それを違う形の表現で出せるようになったんだと思います。

―― 尾崎さんのなかで直接的な「怒り」の表現は飽きたというか、書き尽くしたのかもしれないですね。

そうなんですよ。自分自身がそういった表現に飽きてきているんでしょうね。僕はライブでも、2日間同じMCをするのは絶対に無理なんです。もう確実に「怒り」を表現した曲は存在するわけだし、なかには「それでも良いから昔みたいな曲を…」というファンの方もいるかもしれないけれど、そういうものを聴きたい時は過去の曲を聴いて欲しいと思いますね。とにかく…「僕は満たされてないです」とだけ、太字でお伝えください(笑)。

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